最新記事

映画

大ヒット映画『ニモ』の続編は、陽気なドリーのディープな過去

2016年7月15日(金)16時00分
デーナ・スティーブンズ

©2016 DISNEY/PIXAR ALL RIGHTS RESERVED

<大ヒット映画の続編『ファインディング・ドリー』は、冒険と笑いと人間的な切なさにジーンとくる傑作>(画像のシーンでは、ドリー(右)が家族を見つける旅に出る。ニモとマーリンも同行することに)

 オレンジ色に白帯の入った熱帯魚カクレクマノミが、世界的な人気者になるきっかけをつくった映画『ファインディング・ニモ』。あれから13年たったこの夏(映画の中では1年後という設定だが)、続編である『ファインディング・ドリー』が公開される。

 前作は、男やもめのカクレクマノミのマーリンが、人間にさらわれた一人息子ニモを取り返すべく大奮闘する物語だった。その真のテーマが子育ての喜びと不安だったとすれば『ファインディング・ドリー』は薄れゆく記憶をたぐり寄せて、自分を再発見する物語だ。

 もっとも子供たちはそんな堅苦しいことを考えずに、この映画を満喫するはずだ。ピクサーの製作らしく、『ファインディング・ドリー』はCG映像を駆使して、海(と陸)の世界を生き生きと描く。ハラハラする追い掛けっこや笑いも満載だ。

 主人公のドリー(声はエレン・デジェネレス)は、青い体に黄金色のヒレを持つナンヨウハギ。物忘れがひどいけれど陽気なドリーは前作で、心配症で過保護気味なマーリン(同アルバート・ブルックス)とは対照的なキャラクターとして、ニモに次ぐ人気者になった。

【参考記事】『アリス』続編、ギャグは滑るが魅力は健在

 だが、『ファインディング・ニモ』のドリーは謎の多いキャラクターだった。なぜほかの海の生き物たちと全然違う考え方をするのか。なぜ独りぼっちなのか。なぜ家族でもないのに、ニモを捜すためにそれまでの生活を捨てて、マーリンと冒険に出てくれたのか。『ファインディング・ドリー』は、そんな人気者だけれど謎に満ちたドリーの生い立ちを明かす物語だ。

『ニモ』よりも深い物語

 たまたま人気が出た脇役のスピンオフ映画なんて、ありがちで駄作の可能性が高そう――そう心配するニモ・ファンは多いかもしれない。

 だが、前作に続き監督と今回は脚本も務めたアンドリュー・スタントンは、ドリーの物忘れのひどさを単なる愉快な個性以上のものに膨らませることで、『ドリー』を『ニモ』よりディープな映画に仕上げることに成功している。

 確かに『ドリー』には、『ニモ』のようなオリジナリティーと勢いはない。要するに家族の別離と再会の物語で、その中間はコミカルな追い掛けっこが延々と続く映画とも言える。

 だが、『ドリー』はそこに『ニモ』とは違う種類の人間的な心情を付け加えて、見る者の胸を締め付ける。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ軍撤退なければ、ドンバス地方を武力で完全

ビジネス

アングル:長期金利2.0%が視野、ターミナルレート

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中