最新記事

自動車

死亡事故のテスラは自動運転車ではなかった

2016年7月8日(金)17時00分
ランドル・オトゥール

 つまり死亡したジョシュア・ブラウンは、もっと注意していなければいけなかった。ブラウンがスピードを出し過ぎていたとか、DVDを見ていたとか、事故当時の状況に関して食い違う報道も出ている。当初の事故報告にはそのような事実は書かれていないが、もしそれが本当だったとしても、テスラがトラックより優先権があった事実は変わらない。

 事故の2か月前、デュ―ク大学のロボット工学者ミッシー・カミングスは米議会で、まるで事故を予見するようにこう証言した――「自動車メーカーは、自動運転の安全性が確立されていないのに発売を急いでいる......誰かが死ぬことになる」と。テスラの社名こそ言わなかったが、ドライバーがハンドルから手を離すことを許している自動車メーカーはテスラだけなので、カミングスも念頭に置いていたのだろう。

【参考記事】ハッカーは遠隔操作で車を暴走させられる

 テスラの運転支援システムは、前方向を向いた2つのセンサー(ステレオではないカメラとレーダー)に頼っている。テスラのオーナーによる検証でもわかっているが、このシステムだけでは、道路上の障害物への衝突を完全に避けることはできない。一方メルセデス・ベンツとBMWは、ステレオカメラ(接近する障害物を早期に検知できる)と5つのレーダー(広範囲に渡って複数の障害物を検知できる)を搭載している。

 つまりハンドルから手を離すことを許しているテスラは、自社の運転支援システムの機能を実際よりも誇張しているとも言える。

それでも事故は減る

 死亡事故がニュースになる前日、都市交通局の全米協会が自動運転車に関する勧告を行った。この中では、自動車専用道路以外で「一部が自動運転化された車」の運転を許可しないよう求めている。「こうした車が危険運転を誘発することがわかっている」からだ。勧告はテスラの事故を未然に防げていたかもしれないが、部分的な自動運転化はトータルで見れば安全に寄与する可能性があることは考慮されていない。

 事故のニュースから数日後、NHTSAは交通事故の死亡者数が2015年に7.7%増加したと発表した。ここ数年で最大の増加率だ。テスラのイーロン・マスクCEOがやや自己弁護的に指摘したように、部分的な自動運転化は死亡者数を半分にできるかもしれない。完全な自動運転化が実現すれば、そこからさらに半分にできるだろう。今回のテスラの事故によって国や各州の交通規制当局が、現在開発途上にある本当の自動運転車を「色眼鏡」で判断することがあってはならない。

Randal O'Toole is a Cato Institute Senior Fellow working on urban growth, public land, and transportation issues.
This article first appeared in the Cato Institute site.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中