事件を内部と外部から見つめる、2つのメモリアルセンター
フリドネスさんは、「2011年に7・22センターで当時のツイッターが公開されたことをきっかけに、SMSの公開が検討されていた」と同紙に語る。オスロ中心地では、爆破現場となった市庁舎内に別の7・22センターがすでに設けられている。そこには、ブレイビクが使用した所持品や車が展示されているほか、ウトヤ島の青年たちの壊れた携帯電話、当日の人々のツイッターでのやり取りが公開されている。

市内にある7・22センターは、事件を外部からみつめる。その一方、ウトヤ島でオープンするメモリアルセンターでは、被害者と愛する者たちのプライベートなSMSが初公開されており、事件を内部から見つめることができる。
生存者と犠牲者、愛する者たちとのプライベートなやり取りが初公開
ウトヤ島のセンターは22日に公開されるが、地元の大手アフテンポステン紙がその一部を公開した(以下、新聞より引用)。
ベネディクテ・ヴァトンダル・ニルセン(15)から助けを求めるSMSを受信した時、母親は、娘が大げさに妄想を言っているのだと勘違いをした。ベネディクテさんは、ブレイビクからの銃声から逃れるために小屋に隠れていた。
17:25
娘:ママ、大変よ。銃で攻撃を受けているの!!
母:どんな武器なの
娘:警察に電話して!ここに向かってって!
母:そこに大人は誰もいないの?
娘:いるわ!ママ、私殺されそうなの。助けて!労働党への攻撃よ!
ウトヤ島は、子どもにとって一番安全な場所だと思っていた母親。警察が島で事件が起きていることを認め、母親は事態の緊急性をやっと理解した。
17:46
母:警察と話したわ。電話して。
17:58
母:電話してちょうだい
18:12に、2人は電話で会話をし、娘は「ママ、これから何が起きても、私がママを愛していると覚えていてね」と伝えた。物音がして、電話は切れた。
18:13
母:警察とまた話したわ。ウトヤ島に向かっているそうよ。電話して。ママもそっちに向かおうか?
警察のレポートでは、18:14に娘は腹部を撃たれ、射殺された。13人の仲間と一緒に、腹部から血を流した状態で水辺で発見された
18:53
母:電話して。迎えにいこうか?
19:04
母:そっちにいこうか?
19:20
母:お願い、電話して。迎えにいくのに、どこにいるか知る必要があるわ。
警察には島に来ないように促されたが、母親は車で全速力で向かった。娘は水泳が得意だったから、きっと泳いで逃げたのだろうと思っていた。それから4日間、ほかの家族と同じ待機場所で知らせを待ち続けた。心が引き裂かれるような時間が続いた。事件が起きて約1週間後、電話が鳴り、母親は娘の死を知った。今でも犯人への怒りや、救助が遅れたことに怒りを隠せない母親のベアテ・ヴァトンダルさん。犯人や極右の思想、娘に何が起きたのかを後世が忘れないために、SMSの公開を許可した。
ブレイビクが狙った、「青年部」とは何か?
最後に、「青年部」とはなにかを説明したい。日本ではあまり注目を浴びることがないが、ノルウェーでは各政党に「青年部」があり、ここから未来の有望な政治家が育成される。現在の首相や大臣たちも、多くが青年部で10代の頃から楽しい政治活動時代を送ってきた。青年部の主張は母党に大きな影響を与え、青年部で採用された法案は、数年後に国会で可決されることもある。筆者が普段、集中的に取材をしているのもこの青年部だ。青年部の若者たちは、ノルウェーにとって「明るい希望に溢れた未来」そのものなのだ。

ブレイビクが狙ったのは、移民背景の政治家が多く、移民政策に寛容な当時の与党で、当時の首相が所属していた労働党の青年部だった。どこの青年部でも、7〜8月にはサマーキャンプが開催され、若者たちはスポーツや政策議論をしながら数日間を過ごす。ブレイビクが血で真っ赤に染めたのは、労働党青年部の子どもたちがキャンプをしながら楽しむウトヤ島だった。ウトヤ島は、「労働党の心臓」とも例えられる、政治色の強い場所だ。
青年部たちは普段もテレビや新聞で頻繁に取り上げられるため、国民の間でも愛着が深い。ノルウェーでは、政治活動に積極的な若者は好意的に受け止められる。だからこそ、国の未来を担う青年部の若者が残酷に殺害されたことは、国民にとって大きなショックだった。
テロ後、若者と民主主義の攻撃だとして、各政党への党員申し込みは急増した。ブレイビクの思惑は外れ、政治活動に積極的な若者たちはさらに増えた。「ブレイビクが否定した今のノルウェーを、私たちは維持する。ノルウェーは変わらない。憎しみの道を辿らず、憎しみには負けない。憎悪や差別感情を拡散させないために、後世に歴史を伝えなければいけない」。この思いを支えにし、ノルウェーでのテロ議論や憎悪や差別との闘いは、これからも続いていく。
Photo&Text: Asaki Abumi
