最新記事

北欧

連続テロから5年 復讐という選択肢を拒むノルウェー 遺族や生存者が当時の悲惨なSMSを公開

2016年7月21日(木)16時35分
鐙麻樹(ノルウェー在住ジャーナリスト&写真家)

utoya_asakiabumi03.jpg

党員がメッセージを書いた紙がかけられたウトヤ島の木(左のメモから「肌の色や宗教に関わらず、人間は人間」「ひとりの男性がこれだけの憎悪をみせることができたのです。私たちが共にどれだけ大きな愛をみせることができるか、考えてみてください」「ウトヤ島」 Photo:Asaki Abumi


 テロを経験したノルウェーのこのような対応は、テロ事件が度重なる世界の中でも特殊だと話題を集めている。その一部は、生存者や犠牲者の家族の、その後の生き方。そして、テロの引き金のひとつであった、憎悪や差別感情との国民の向き合い方だ。パリなど他国でテロを経験した遺族の中には、ノルウェーの7・22サポートグループを訪問するなど、テロ後の対応について視察に来るものもいる。

銃乱射事件が起きた島に、民主主義や過激思想を学ぶ建物を立ち上げる

utoya_asakiabumi04.jpgウトヤ島には小舟で向かう。事件当時は、フィヨルドを泳いで生き延びた者もいた Photo:Asaki Abumi

 事件から5年がたち、悲劇を後世に伝え続けるために、ウトヤ島にはメモリアルセンターが建てられた。13人の若者の命が奪われた現場となったカフェの小屋の解体を青年部は望んだが、世論が反対した。結果、犯人が撃った銃弾の跡などを残したまま、メモリアルセンターができた。「ヘインフーセ」(守護の家)と名付けられた館内には、生存者や犠牲者の家族の同意の下、当時のSMSのやり取りが寄贈され、展示されることとなった。労働党青年の現代表マニ・フサイニは、取材に対して「この家の名前は、中にあるものを守るという意味です。館内には、かつてのカフェの一部が残っています」と答えた。

 7月15日付けのアフテンポステン紙では、館は「過去の出来事を悲しむ場所ではなく、未来を考える場所」であり、「どのような世界を望まないか考える場所ではなく、どのような世界をこれから作っていきたいか考える場所」だと説明されている。ただの展示館ではなく、「教育の場」でもあり、民主主義を問い、過激な極右思想、法制度、情報源を批判的に読み解く能力、ヘイトスピーチ、7・22に何が起きたのかを学ぶ場所となっている。9年生と10年生には社会科見学の場として提供される。テロの出来事を話しにくいと感じる教員がいる中、良い教育の場になりそうだ。

 クラッセカンペン紙 18日付けでは、「なぜ事件は起きたのか、同じような悲劇をどうしたら避けられるか。歴史から学ばなければ、また繰り返される」とウトヤ島の代表ヨルゲン・フリドネスさんは語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦時下でも「物流を止めるな」 ウクライナ

ワールド

メキシコ南部でM6.5の地震、首都でも揺れ 大統領

ワールド

再送ウクライナ北東部ハルキウの集合住宅に攻撃、2人

ビジネス

米国株式市場=5営業ぶり反発、ダウ319ドル高 半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 5
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中