最新記事

イギリス

ブレグジット─英国のEU離脱はあるか? 欧州の歴史は逆回転するか?

2016年6月21日(火)09時55分

 6月19日、英国民が23日にEU離脱を選べば、欧州の歴史は逆回転を始めるかもしれない。写真は離脱を支持するバナーを掲げる人々。ロンドンで15日撮影(2016年 ロイター/Stefan Wermuth)

英国民が23日に欧州連合(EU)離脱を選べば、欧州の歴史は逆回転を始めるかもしれない。離脱が決まれば、第二次世界大戦および冷戦後の秩序に基づく政治、安全保障の構造は崩れ始めそうだ。

辛くも離脱を免れた場合でも、論争が生んだ不快な記憶、EU問題をめぐる国民投票の広がり、そして欧米双方におけるグローバル化および国際化したエリート層への反発は、すぐに消えそうにはない。

離脱が決まった場合、どれほどの勢いで「感染」が広がるかは分からない。ただ、主要国がひとつEUを去る、というだけでは済まないのは確かだ。

歴史家でポーランド前首相のトゥスクEU大統領は、旧ソ連に押し付けられた共産党支配の打倒とEU加盟に向けた闘いに加わった人物でもある。壁や国境を挟んで間違った側にいることの意味を痛感してきたトゥスク氏は先週、「ブレグジット(英国のEU離脱)が決まればEUだけでなく、西側政治の文明全体の崩壊が始まりかねない」との危惧を示した。

例えキャメロン英首相が土壇場で世論をEU残留に傾かせることに成功したとしても、国民投票をEUとの条件交渉のテコに利用した首相の戦術を他の加盟国が真似する恐れがあると、トゥスク氏は指摘した。

EU諸国指導者や外交官の間では、英保守党内の対立に終止符を打つために欧州の将来をもてあそんだ末、対立終結にも失敗したキャメロン首相に対する怒りが渦巻いている。

離脱の場合、ドイツとフランスは残りのEU諸国の結束を強め、安全保障、軍事面での新たなプロジェクトを推進しようとするだろう。しかしEU諸国はユーロ圏の強化で合意に至っていない上、来年には各国の選挙で反EUを掲げるポピュリスト勢力が台頭しそうな情勢を踏まえると、大規模な統合計画は当面無理だろう。

<ポピュリストが勝利か>

欧州統合に反対する勢力は多くの国々で勢いを増している。経済への不満、外国との競争や移民に雇用を奪われることへの恐怖感、そして高齢化社会への不安が背景だ。

オランダでは4月、EUとウクライナの連合協定の是非を問う国民投票で反対が賛成を上回った。

ハンガリーのオルバン首相は、EUが決めた加盟国による難民受け入れ分担を認めるかどうかを問う国民投票を、10月に実施する計画だ。

5月のオーストリア大統領選では、EU懐疑派が僅差で敗れた。

米ピュー・リサーチ・センターが欧州全域の市民を対象に実施したEUに対する最新の調査によると、フランスでのEU支持率は最も落ち込み38%となり、英国に比べても6%ポイント低い結果となった。

欧州大学院(イタリア・フィレンツェ)の客員フェロー、ヘザー・グラッベ氏は「ある意味で、ポピュリストは既に勝利を収めている。彼らによって主要政党の政治議題が決められているからだ」と言う。

米国と北大西洋条約機構(NATO)の戦略担当者らも警戒を強めている。英国がEU離脱を決めれば、安全保障上の課題に対する西側諸国の結束が弱まると確信しているからだ。

また、EUは今後数年にわたり、英国の離脱条件をめぐる論争に忙殺され、英国の方はますます内向き志向を強めそうだ。

米シンクタンク、外交問題評議会のリチャード・ハース会長は雑誌への寄稿で「欧州建設プロジェクトは第二次大戦後に始まり、欧州を二度と不安定と暴力の舞台としないことに大いに貢献してきたが、このプロジェクトがさらに脅かされるだろう」と警鐘を鳴らした。

ハース氏は、欧州大陸は冷戦後、米国の戦略家にとって「退屈な」場所になったと指摘。英国がEUを離脱したこと自体によって欧州への関心が大きく高まることはないにしても、安定していた欧州の秩序がゆっくりと破綻するきっかけの一つとなり、EU、英国ともに「弱体化と分裂が進む」との見通しを示した。

(Paul Taylor記者)



[ブリュッセル 19日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、CIAに停戦協議打診か イスラエルは米に説

ワールド

ハメネイ師息子モジタバ師、後継有力候補との情報 米

ビジネス

プーチン氏、欧州向けガス供給の即時停止の可能性を示

ワールド

イラン交戦は国連憲章違反、学校攻撃にも深い衝撃=独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 8
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 9
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中