最新記事

【2016米大統領選】最新現地リポート

ヒラリーを「歴史的」勝利に導いた叩かれ強さ

2016年6月10日(金)19時10分
渡辺由佳里(エッセイスト)

 今年の予備選では、不満、怒り、憎しみを原動力にしたトランプとサンダースの支持者の暴力行為が目立ったが、ヒラリーは勝利宣言でこう語った。

「私たちは、対立よりも協力のほうが良いと信じています。分裂より団結、憤りより勇気づけること、壁よりも橋のほうがいいと信じているのです。」

「偉大であるためには、卑小であってはなりません。アメリカを定義する価値観と同じくらい私たち国民も寛容でなくてはならないのです。アメリカは、心が広く、公正な国です。私たちは子供たちに『神のもとに統一され、全ての人々に自由と正義が約束された不可分の国(学校や公式行事で使われる「忠誠の誓い」の一部)』と教えます。けれども、今回の選挙は、これまでのような共和党対民主党というお決まりのものではありません。この選挙は異なります。アメリカとはどんな国なのかを決めるものであり、何百万ものアメリカ人が一体になるものです。私たちは(メキシコ人やイスラム教徒を差別するトランプより)まさっているはずです」

 このヒラリーの演説は、人種、宗教、社会経済的背景、性別、性的指向などにかかわらず、アメリカがすべてのアメリカ人にとっての国であることを呼びかけるものであり、トランプやサンダースより大統領としての威厳と説得力があった。

 ここでも明らかなのは、トランプに辟易している共和党員へのラブコールだ。トランプが共和党野候補指名を確実にした日、ツイッターで #RepublicanForHillary というハッシュタグがトレンドになった。そこには「女性蔑視の人種差別者に投票なんかできない」という意見が目立った。ヒラリー陣営は、そういった人々にも「アメリカを誇れる国に保とう」と呼び掛けている。

 また、「The View」というテレビ番組でヒラリーが冗談まじりに語っていたが、彼女の強みは「面の皮が厚いこと」である。

 トランプもサンダースも、他人からの批判に過敏だ。トランプは、批判されたら倍返しをする。相手がローマ法王であっても。また、サンダースは、レポーターの質問が気に入らないときに、短気になったり 、その場を立ち去った りすることがある。

 女性のヒラリーが同じことをしたら、トランプやサンダースのように簡単に見逃してはもらえない。長年の経験でそれがわかっているヒラリーは、「女性差別だ!」と文句を言うかわりに面の皮を厚くするトレーングをしたのだ。

 トランプ人気を懸念する人は多いが、ヒラリー自身はトランプが対戦相手になったのを喜んでいるという見方もある。これまでは対戦相手のサンダースを腫れ物のように扱ってきたが、トランプが相手なら遠慮なく攻撃できる。

 暴言を繰り返しているが、実はプライドが高く傷つきやすいトランプは、何十年もあちこちからバッシングを受け、倒れ、起き上がってきたヒラリーより精神的に弱い。本選の討論では、トランプが冷静さを失って暴言や揶揄で反論するだろう。共和党のディベートではそれが有効だったが、予備選と本選はまったく異なるゲームだ。

 本選では、国民は候補に「大統領らしさ」を求めるものだ。ヒラリーとの一騎打ちとなったトランプは、予想以上に早く崩れ始めるかもしれない。

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

筆者・渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、アルゼンチン支援は「資金投入ではなく信

ワールド

アプライド、26年度売上高6億ドル下押し予想 米輸

ワールド

カナダ中銀が物価指標計測の見直し検討、最新動向適切

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米株高を好感 半導体関連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 10
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中