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仲裁裁判がまく南シナ海の火種

2016年6月9日(木)17時10分
ダン・デルース、キース・ジョンソン

東シナ海には関与を明言

 こうした米政府の曖昧な立場が、おそらくフィリピンと中国双方への抑止力として働いていると、専門家らは指摘する。アメリカがどう出るか分からないだけに、軍事衝突に踏み込みにくくなるからだ。

「米政府の立場は、戦略的な曖昧さがかえって余裕を生む、という基本論理に基づいている」と、米政府の元当局者は言う。

 それでも中国との領有権争いを抱えるほかの同盟国について、米政府は極めて明確な関与を表明している。東シナ海での尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる日本と中国との争いにおいては、オバマ自ら尖閣諸島が日米安保条約の適用対象であると明言した。

 対日本と対フィリピンでのこうした違いは、それぞれの安保条約の内容が異なるためだろうと、専門家は指摘する。また、衝突の際に、自力で対応できる軍事力が日本のほうが高いことも影響しているとみられる。

 中国とフィリピンの間で緊張が高まることがあるとすれば、考えられる発火点の1つは、南沙諸島のセカンド・トーマス礁だろう。フィリピン海軍はここで領有権を主張するために第二次大戦時代の軍艦を故意に座礁させ、数人の兵士をその中に駐留させている。

 もしもフィリピン軍が衝突に巻き込まれたら、米政府は難しい決断を迫られる。だが当面のところアメリカは水面下で、武力衝突につながるいかなる行動も思いとどまるようフィリピン政府に働き掛けている。

 ある元米政府高官は米政府の真意についてこう言う。「ただの岩のために、アメリカが本気で世界大戦に突入したいとでも思うか?」

From Foreign Policy Magazine

[2016年6月14日号掲載]

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