最新記事

ヘルス

ロシアでHIV感染拡大、原因はコンドーム

2016年6月1日(水)17時50分
シボーン・オグレイディ

Denis Sinyakov-REUTERS

<コンドームの使用を奨励するのは婚外交渉、ひいてはHIV感染を拡大させる西側の謀略?> 写真のプーチンはコンドームを巻かれている

This article first appeared in Foreign Policy Magazine.

 昨年11月、ロシアのエイズ予防対策連邦センターのワディム・ポクロフスキー所長は会見で、ロシア全土でエイズウイルス(HIV)への感染が拡大しており、このままでは2020年までにHIV感染者が200万人に増える可能性があると警告した。

 だが心配ご無用。クレムリン直属のロシア戦略調査研究所(RISS)がエイズ感染拡大の原因を突き止めた。コンドームだ。

 性行為を通じて感染し、エイズを発症すれば死に至らしめることもあるHIV。その感染拡大を防ぐための唯一ともいえる手段であるコンドームが、HIV感染拡大の原因だと言うのだ。

HIV感染は西側の攻撃

 RISSのタチアナ・グゼンコワ副所長はモスクワ議会で証言し、HIV感染拡大は西側諸国のロシアに対する「情報戦争」に他ならないと力説した。

 RISSが公表したHIV感染に関する報告書の共著者でもあるイーゴリ・ベロボロドワは、「避妊具業界が商品の売り込みに躍起になるあまり、未成年者の性行為を煽っている」と批判。HIV感染を予防する最善の対策はコンドームの使用ではなく「互いに忠実な男女間の結婚を基盤とする、ロシア伝統の家族の価値を守ること」だと述べた。

【参考記事】抱腹絶倒!プーチン皮肉るアングラ劇団

 グゼンコワ副所長は、エイズ予防対策には西側諸国とロシアという2つのモデルがあると主張。そのうえで西側のエイズ予防対策について「いかにも新自由主義的なイデオロギーに満ちており、薬物依存症患者やLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーなどの性的少数者)といったHIV感染リスクの高い特定のグループに過度に焦点を当てたものだ」と批判した。

 ロシアのエイズ対策は「ロシアの文化的、歴史的、精神的な特性を取り入れており、保守的なイデオロギーとロシアの伝統的な価値観に基づいている」と評価した。

【参考記事】ロシアにはダメ男しかいない!

 だがポクロフスキーには、そうした政府のアプローチこそが、ロシアにおけるHIV感染拡大の元凶と映る。「過去5年間のロシアの保守的なエイズ予防対策の結果、HIV感染者は2倍に増えた」

ロシアでは2015年、9万3000人が新たにHIVに感染した。いや大丈夫、コンドームを禁止して貞節を説けば万事解決だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中