最新記事

インタビュー

ドイツ発「インダストリー4.0」が製造業を変える

2016年6月23日(木)17時28分
WORKSIGHT

 そうしてスマート化した工場同士を連結すれば、従来のバリューチェーンがデジタル化したデジタルバリューチェーンが完成します。各工場の情報システムをつないで、最終的に国全体を1つの仮想工場に見立て、国家の基幹産業である製造業を包括的に効率化することがインダストリー4.0の目標です。

 これを推し進めて、ドイツ国内だけでなく海外にもインダストリー4.0の技術を使った工場が増えればグローバルな水平展開も見込めます。従来のバリューチェーンがデジタル化される、すなわちデジタルバリューチェーンが構築できれば自国のスマート工場と基盤を同じくするスマート工場が増えるので、それだけ連携先も増えることになり、これもまたドイツにメリットとなるわけです。

インダストリー4.0はエコロジーも推進

 また、スマート工場のシステムや設備、機器などを丸ごとドイツに発注したい新興国の企業が出てくるかもしれません。買い替えや他のブランドへの乗り換えが容易にできる消費財と違って、工場となるとそう簡単に代替できません。最初の設備投資もさることながら、メンテナンスやバージョンアップも含めて長期的で安定した利益をもたらすでしょう。インダストリー4.0ビジネスは輸出産業としても将来性が期待されているのです。

 さらにもう1つ付け加えるとするなら、スマート化が実現すれば生産や廃棄のロスを減らせますし、そもそも本当に必要なものを作っているかを問い直すリデュースも促進されます。ですからインダストリー4.0はエコロジーを推進するものでもあります。

 ドイツは2018年までにインダストリー4.0のプロトタイプを完成させ、2020年までに一部をマス・カスタマイゼーション化した工場を自国の工場内で操業するという計画や、2035年までにはインダストリー4.0を産業全体に適用するという研究ロードマップを発表しています。***

 そうなると製造現場で今以上に機械やロボットが関わるようになりますが、ドイツは全てを機械任せにしようとは思っていません。デジタル化することで効率的な製造を可能にしようとしているだけで、従業員の再教育や学校教育の変革を通して人間はよりクリエイティブな新しい仕事を担うことが望まれています。

 世界に通じる革新的な産業を自分たちで作り上げ、それを伝播させていく。インダストリー4.0はモノづくり大国ドイツの野心的な取り組みを示すものといえるでしょう。

wsOgi_1.jpg

インダストリー4.0の背景にあるのはITの発展、コスト上昇、ニーズの多様化


 インダストリー4.0が生まれた背景には、ドイツが製造業の分野で直面する3つの環境変化があります。

 1つは情報通信技術、インターネットの発展です。アメリカのIT企業を中心にクラウドコンピューティングやビッグデータを活用した製造業の新しいビジネスモデルが急成長しています。そうしたIT企業の下請けとして部品の製造や組み立てに従事するだけでは旨みがありませんし、低価格競争に巻き込まれることへの危機感もあります。これを打破するためにドイツは新しいモノづくりを主導することを考えているわけです。

 2つ目の変化は生産コストの上昇です。東欧諸国やアジア新興国が生産拠点として台頭する一方、ドイツ国内では原発の廃止などでエネルギーコストが上昇。生産効率性を高める必要に迫られています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ最大政党、次期政権で支持決定できず

ビジネス

フィンテックの英レボリュート、株式売却で企業価値7

ワールド

アングル:鈍る円高、日本勢の企業買収など背景 巨額

ビジネス

通商政策の影響、当面は「大きくなる可能性」に注意=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 2
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあるがなくさないでほしい
  • 3
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世界的ヒット その背景にあるものは?
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 6
    BAT新型加熱式たばこ「glo Hilo」シリーズ全国展開へ…
  • 7
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 3
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 8
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中