最新記事

スタンフォード大学 集中講義 in 東京

試作すらせずに、新商品の売れ行きを事前リサーチするには?

2016年3月25日(金)15時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 次がクリエイティビティで、キーワードは「Motivate & Experiment」。やる気を高めることと、実験を繰り返しながら課題を解決しようとすることである。

 冒頭に挙げた「マックスパゲッティ」の話は、シーリグがクリエイティビティの例として出したものだ。投資する前にテストし、実際に製品を作るかどうか判断する手法を「プレトタイピング」と呼ぶらしいが、その一例として、聴衆にクイズを出したのである。要するに、プロトタイプの前の段階の実験であり、頭を柔らかく保つのにも役立つ方法だという。

 その後も、時には短い動画を流しながら、シーリグはイノベーション、起業家精神と順に説明していく。イノベーションのキーワードは「Focus & Reframe」(フォーカスすること、状況を捉え直してユニークな解決策を生み出すこと)で、起業家精神のキーワードは「Persist & Inspire」(粘り強く続けること、周りの人を巻き込むこと)だ。

 自分が受け持つスタンフォードのオンライン講座で、1つの課題に対して解決策を最低100個考えるよう受講生に要求したエピソードも披露した。10個ではなく、100個である。起業家として成功するには――あるいは、豊かな人生を切り拓くには――、そのぐらいReframeやPersistが必要ということだ(参考記事:「解決策を100個考えなさい」とティナ・シーリグは言った)。

「さあ、質問を100個ちょうだいね」と質疑応答へ

 起業家精神の説明が終わると、ちょうど予定時間1時間30分の半分を過ぎたところだった。シーリグはここで突如、話を止め、壇上のイスに腰掛ける。無理やりに終えた様子ではなく、最初からそのつもりだったようだ。

 理由は、質疑応答。全体の半分を質疑応答に充てるつもりらしい。シーリグはいつも質疑応答を重視するそうだが、今回、それだけの数の質問が聴衆から出てくるだろうか(もちろん質問も英語だ)。

「さあ、質問を100個ちょうだいね」と、シーリグが促す。

 心配は無用だった。1人、また1人と手が上がる。「日本の教育制度の中で育ってきた自分はクリエイティブではない。どうすればいいか?」といった質問や、「大きな組織ではインベンション・サイクルに邪魔が入ると思う。どうやって避ければいい?」といった質問。「どうすればもっと良い質問ができますか?」という"クリエイティブな"質問もあった。

 思いがこもっているがゆえに――あるいは拙い英語力ゆえか――、的を射ない質問も一部にあったが、シーリグはうまく意図をくみ取って答えを投げ返す。結局、途切れることなく16人が質問をして、後半の45分もあっという間に過ぎていった。

 シーリグは著書で一貫してこう主張している。クリエイティビティやイノベーションは、生まれつきの才能ではなく、誰もが身につけられるスキルだ――。「起業後進国」とも呼ばれる日本だからこそ、現状にもどかしさを感じ危機感を抱いている多くの人に、彼女のこうしたメッセージが響くのではないだろうか。

 少なくともこの日、東京で雨の夜に開催された「夢をかなえる集中講義」の受講生約240人は、そんな人たちだった。TEDトークのような会場の空気をつくり出していたのは、ティナ・シーリグだけでなく、聴衆たちでもあったのだ。

[登壇者]
ティナ・シーリグ Tina Seelig
スタンフォード大学医学大学院で神経科学の博士号を取得。現在、スタンフォード大学工学部教授およびスタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)のエグゼクティブ・ディレクター。米国立科学財団とSTVPが出資するエピセンター(イノベーション創出のための工学教育センター)のディレクターでもある。さらに、ハッソ・プラットナー・デザイン研究所(通称d.school)でアントレプレナーシップとイノベーションの講座を担当。工学教育での活動を評価され、2009年に権威あるゴードン賞を受賞。

《本誌ウェブ「スタンフォード大学 集中講義」記事一覧》


『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』
 ティナ・シーリグ 著
 高遠裕子 訳
 三ツ松 新 解説
 CCCメディアハウス

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナへのトマホーク供与検討「して

ワールド

トランプ氏、エヌビディアのAI最先端半導体「他国に

ビジネス

バークシャー、手元資金が過去最高 12四半期連続で

ビジネス

米、高金利で住宅不況も FRBは利下げ加速を=財務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中