最新記事

対ロ関係

新世代と「ソ連根性」の対立。経済制裁下のロシアで見た明暗

意外に豊かな街並みと市民の誇りを支えるのは 過去の原油高でためた資金と反政府派の人材難

2016年3月15日(火)16時52分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

経済は苦しいはずだが街は以前と変わらない(モスクワの地下鉄) Maxim Shemetov-REUTERS

 1年ぶりにモスクワを見て回っている。欧米の制裁と原油価格の下落で経済はよくないはずだが、街の表情は以前と変わらない。新しいビルが増え、店にある食料品は豊かだ。人々は、プーチン大統領がシリアやウクライナでアメリカの鼻を明かしていると満足している。

 それでも人々は、公共料金や食料価格の上昇に音を上げ、上層部の汚職に憤慨し、プーチンは外国でいい格好をするだけでなく国内「掃除」もしてほしい、と言い始めている。ロシアがGDPでメキシコに越され、次はインドネシアに抜かれようとしていることを識者らは知っており、底なしの恐怖を感じている。

 識者らは、今の政府に経済困難から抜けるための解決策はないとみている。プーチンは大統領になって数年は改革を進めたが、今ではただ「自分がいなくなったら国は混乱する」という脅しで支持を取り付けるだけの存在になった、と彼らは言う。

 それでも、国内が大きく不安定化することはないだろう。反政府派には、核になる人材がいない。国民は、自由、民主主義、改革を90年代に叫んだ者らが、自分たちの生活を破壊したことをよく覚えている。今年9月に議会総選挙があるが、政府・与党は候補者を大幅に入れ替えて国民の不満を吸収するようだ。

 原油価格が高かった頃にためた「国民福祉基金」が残っているので、18年3月の大統領選挙までは、何とか国家予算を持たせることができるだろう。ロシアでは公務員も国営企業もやたら多い。国家予算に直接・間接にぶら下がって生きている国民は、人口の半数を超える。彼らに払い続けていれば、間違いなく当選できるだろう。

首相訪ロは実現すべきだ

 ロシアには新旧のせめぎ合いが見られる。筆者が教えるモスクワ大学ビジネススクールの学生は、世界の新しいビジネスをよく知っている。タクシー配車サービスのウーバーや民宿仲介サイトAirbnb(エアビーアンドビー)はロシアでも人気で、送金は携帯で瞬時にできる。既得権者の抵抗や規制で縛られている日本が恥ずかしくなる。

 飛行機で乗り合わせたロシア人女性は、ロシアの地方都市で日本語とビジネスを勉強し、今は東京の日本企業で係長をやっているという。あと数年経験を積んでから、一旗揚げたいそうだ。

【参考記事】ロシアを見捨てる起業家世代

 一方で、どうしようもないと思うような、「ソ連的」な──他者への悪意、疑心、無知、怠惰、粗暴さなどを意味する──連中も次々と湧いてくる。空港の係員、大学の守衛など、昔と同じような部署で、同じ格好、同じ顔をしている。彼らは、ソ連崩壊後のエリツィン時代に奪われた利権ポストに返り咲いている。ある有名大学では陸軍の戦車隊長が学長に任命されたと言って、識者が嘆いていた。「ソ連」は、ひたひたと人々のマインドや生活に戻ってきている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、欧州諸国の「破壊的アプローチ」巡りEUに警

ビジネス

英製薬アストラゼネカ、米国への上場移転を検討=英紙

ワールド

米EV推進団体、税額控除維持を下院に要請 上院の法

ビジネス

マネタリーベース6月は前年比3.5%減、10カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中