最新記事

シリア内戦

支援物資を高値で売るシリア政権の「戦術」

停戦発効後もISIS掃討を口実に攻撃が続き、住民は空爆と兵糧攻めに苦しむ

2016年3月10日(木)17時33分
フィクラム

兵糧攻め アサド政権はその支配地域で戦闘員も非戦闘員も飢える無差別攻撃を行っている Abdalrhman Ismail-REUTERS

 シリアのアサド政権とロシア軍は民間人を相手に戦争を仕掛けてきた。その武器はミサイルや樽爆弾にとどまらない。経済的な武器でも人々を締め上げてきたことは、シリア北東部の都市デリゾールのここ数カ月の状況を見れば明らかだ。

 ロシア軍は1月15日、デリゾールの2つの地区に6箱の人道支援物資を空から投下した。この2地区はシリア政府軍の支配下にあるが、1年余りにわたってテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に包囲されている。

 ロシアのニュース専門局ロシア・トゥデーは、ロシア軍参謀本部のセルゲイ・ルドスコイの声明を伝えた。それによれば、ロシア軍はイリューシンIL78輸送機で数回にわたり22トンの支援物資を投下、物資は包囲された地区で住民に配布されるという。

 だが実際には、シリア政府軍第137旅団がすぐさま投下地点に駆けつけ、政府関連施設に支援物資を運び込んだ。

 アサド政権は物資を仕分けして住民に配布するためだと説明したが、政府軍は仕分けを終えるとすぐに物資を目抜き通りに運び、法外な値段をつけて食料品を売り始めた。

 サーディン200グラムが1200シリア・ポンド(約20ドル)、砂糖1キロが7000シリア・ポンド(約112ドル)、鶏肉ハム150グラムが1600シリア・ポンド(約26ドル)といった具合だ。

【参考記事】人間を「駆除」するアサドの収容所、国連が告発

 国連は2月、シリア赤新月社のデリゾール支部が配布できるよう、市内に21トンの支援物資を投下することを決定した。この作戦にはリスクが伴い、クレートが途中で破損したり、赤新月社が入れない地点に落下する可能性があることも考慮した上だった。

 赤新月社はツイッターで物資を無事に受け取ったと報告した。だがデリゾールで活動する人権団体ジャスティス・フォア・ライフ監視団によると、国連の投下した21のクレートのうち、4箱はひどい損傷を受け、7箱は赤新月社が入れない地点に落ち、残りの10箱も誰が受け取ったか確認できていないという。

 シリアの人々にとっては、赤新月社と国連の発表がくい違うことは驚くに当たらない。赤新月社は政権に「借り」があるというのが、多くのシリア人の見方だ。

 アサド政権が反政府派の支配地域を兵糧攻めで落とそうとしているのは明らかだ。このやり方では、戦闘員だけでなく民間人も飢餓と物資不足に苦しむことになる。武装・非武装はおろか、政権支持か反政府派かも問わない無差別攻撃だ。

【参考記事】記者が見たシリア無差別攻撃の現実

 この戦術について、ジョン・ケリー米国務長官は声明で、シリア政府軍に包囲され、餓死者も出たと見られるダマスカス郊外のマダヤを例に挙げ、「マダヤの悲劇が唯一のケースではない」と、アサド政権の戦争犯罪を非難した。

「昨年の年明けから、国連は支援物資を配るようシリア政府に113回要請した。あきれたことに、実際に配ったのは13回だけだ。その間に人々は死に、子供たちは苦しんでいる。戦闘に巻き込まれたからではなく、『降伏か、餓死か』という意図的な戦術のために」と、ケリーは語った。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P続落、FRB議長発言で9

ワールド

米、パキスタンと協定締結 石油開発で協力へ=トラン

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中