最新記事

インタビュー

【再録】J・K・ローリング「ハリー・ポッター」を本音で語る

2016年3月28日(月)17時35分

――あなたは意識して質素な生活を保っているようだ。車を5台買うわけでも、ヘリコプターを買うわけでもない。

 私は運転ができないから、車が5台あっても困るだけ。ヘリコプターも同じ。でも、お堅いピューリタンを気取ってるわけじゃない。お金を使うのは楽しい。

 5年前と現在の最大の違いは、お金の不安がなくなったこと。赤貧を経験した人じゃないと、わからないでしょうね。お金の心配をしなくていいことに、毎日感謝している。

――生活が窮屈になったのでは? 今でも自由に街を歩ける?

 もちろん。うれしいことに、私はあまり目立たない。それに、声をかけてくれるのは礼儀正しい人ばかり。自分かお子さんが本を読んでいて、素敵な言葉で励ましてくれる。

 家の前にマスコミが群がっていた時期は参ったわ。あんなことになるなんて......。不愉快よ。でも、泣き言はいわない。私は人生最大の夢をかなえたんだから。ちょっと、当たりが大きすぎただけ。

――作中のハリーも、いずれは年を取る。

 ちゃんと成長してほしいし、そうさせるつもり。でも、本の雰囲気を壊すような形は避けたい。ハーマイオニーが10代で妊娠したり、誰かが麻薬に手を出したりしたら、ぶち壊しでしょ。

 児童書で妊娠や麻薬を扱うのは好ましくないって思うわけじゃない。ただ、『ハリー・ポッター』にはそぐわないと思う。

――司書や批評家や親から、妊娠や麻薬の話は避けろというプレッシャーを受けたことは?

 そういうプレッシャーはまるで感じない。児童書は、「これこれしかじかを勉強するために読みなさい」という本ではないし、それは文学のあるべき姿じゃない。どんな本からも得るものはあるだろうけど、堅苦しいお説教ばかりじゃなくていいはず。

『ハリー・ポッター』にも教訓はあると思う。でも子供たちが3章まで読んだところで「この本の教訓はこれか」なんて納得している姿を想像すると、ぞっとする。

――あなたは悪魔崇拝を奨励していると非難されているが。

 人気が出ると、決まってこういうことになる。悪魔崇拝を理由に難癖をつけたがる連中には、正面から対決してもいいと思っている。彼らの価値観を変えるのは不可能でしょうけど。

 ただ、一つだけ強く言っておきたいのは、検閲という概念は許せないということ。もちろん、彼らには自分の子供に読ませる本を決める絶対的な権利がある。でも、他人様の子供の読書を制限するなんて、絶対に正しくないと思う。

――お子さんが生まれる前と比べて、どこか書き方は変わった?

 私の作品に登場する子供たちと、その感情の根底にあるものはすべて私の記憶。娘の影響はまったくない。ストーリーの大半は娘が生まれる前に固まっていた。

 それでよかったと思う。自分の子供を実名で自分の本に登場させるなんて、いいアイデアじゃない。私のジェシカが「ハリー・ポッターの妹」として一生を送るなんて、考えただけでゾッとする。

――第4作はシリーズの重要な節目になる?

 そうね。プロットの展開からいけば、とても重要な作品よ。

――作品の長さでも一番?

 いいえ。いちばん長いのは第7巻になりそう。きっと百科事典並みになるわ。それでお別れだから。

 いちばん苦労した作品であることは確かね。『秘密の部屋』にも手こずったけど。不思議なもので、いちばん苦労したこの2作品が一番のお気に入りなの。

――書くことで、あなたは変わっただろうか。

 ええ。ずっとハッピーになった。作品を書き終えるたびに、私はどんどんハッピーになる。『ハリー・ポッター』は、完成できた初めての小説。あと一息だった作品は、それまでに2冊あるけど。

 書くことだけが自分の才能だと思ってたから、それが証明できてうれしい。私は、ものを書くこと以外にはほとんど役立たずの人間なの。平凡な教師で、教えるのは好きだったけれど、事務仕事は苦手だった。誇れることじゃない。

――前に書いた2作品とは?

 両方とも大人の本。詩を除いては、何でも挑戦した。詩も書いたけど、自分でもクズだってわかったから(笑)。皮肉なもので、児童書は考えたこともなかった。いつも大人向けの話を考えていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中