最新記事

スタンフォード大学 集中講義

プライベートジェットで「料金後払いの世界旅行」を実現する方法

「常識とされることを疑い、ばかげたアイデアを出す」――米名門大学で教えられている人生を切り拓く起業家精神の教え(5)

2016年2月23日(火)17時43分

タダで世界を旅するには? 演習で考えてもらい出てきたアイデアが、プライベートジェットを予約して料金を後払いにする、というもの。それを実現するアイデアはと聞くと、ものの数分で出てきた Predrag Vuckovic-iStock.

「いま、手元に五ドルあります。二時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?」――これは『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)という本の書き出しだ。スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグが"イノベーションの心構え"を説いた同書は、日本だけで32万部というベストセラーになった。

 冒頭の問いは「どんな問題もチャンスと捉え、工夫して解決できることを示す」ための大学の演習を紹介したものだったが、このたび刊行されたシーリグの新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)でも、別の演習のエピソードが紹介されている。自分の生活では不可能と思えるような挑戦を考える、というものだ。

 シーリグによれば、イノベーションのカギは、時間も心もうまく配分し、最重要課題に集中することだ(ここで、いわゆる「マインドフルネス」も関わってくる)。そしてもうひとつ重要なことがあり、それを以下、本書の「第6章 フレームを変える――脳に刷り込む」から抜粋する。

【参考記事】心が疲れると、正しい決断はできない

◇ ◇ ◇

 私が学生や企業幹部を対象によくやる演習があります。まず、航空業界や動物園など、ひとつの業界を取り上げ、その業界について当たり前とされていることを挙げてもらいます。つぎに、それとは逆のことを挙げ、常識をひっくり返したらどうなるかを考えてもらうのです。例として、ホテル業界について、あるチームが常識だと考えることを挙げましょう。

・部屋の鍵 ・小さな石鹸 ・旅行客 ・ルームサービス ・廊下の喧騒 ・自宅から遠い ・枕元に置かれたチョコレート ・鍵のついたミニバー ・チェックアウトの時間 ・コンシェルジュ ・部屋のテレビ ・ハウスキーピング ・高い食事代  ・モーニングコール

 こうした常識とされることのひとつひとつは、疑ってみる余地があります。たとえば、チェックインとチェックアウトの時間を柔軟にするには何が必要でしょうか。コンシェルジュではなく、地元住民が案内をしてくれるのはどうでしょう。オープンキッチンがあり、二四時間いつでも好きなときに軽食をつくれるホテルはどうでしょう。飛行機の座席のように、客が部屋を指定できるとしたら。遠方から客を迎え入れるのではなく、地元住民が友人や家族と憩える場としてのホテルも考えられます。自分たちが常識だと考えることのリストを使って、それを逆転してみることで、斬新なホテルのアイデアを思いつくのです。

 映画館について見直したチームもあります。常識だと思うものを挙げ、それを疑ってみると、面白い映画館のアイデアが出てきました。ムービーにかけた「楽して動いて(Move Ease)」は、自転車漕ぎと映画館を組み合わせるアイデアで、観客はじっと座っているのではなく、エクササイズをしながら映画を鑑賞します。映画を見終わった時点で料金を支払えばよく、運動量が多いほど料金は安くなる仕組みにして、しっかり運動するよう促します。

 フレームを変えて問題を捉え直すには、思いきりばかげたアイデアを出す、という方法もあります。詳しくは『20歳のときに知っておきたかったこと』に書きましたが、ばかげたアイデアを考えることは、何ができると思っているのかを探っていくことでもあり、それによって自分の思い込みがあきらかになります。朝食にお菓子を食べる、毎日おなじ服を着る、職場にヒッチハイクで行く、といったアイデアはばかばかしいと思えるかもしれませんが、そうしたものを挙げていくことが、新しい朝食や新しいファッション、そして新しい通勤スタイルのアイデアにつながったりするのです。

【参考記事】起業家育成のカリスマに学ぶ成功の極意

 最近、ある学生グループに、彼らの生活では不可能と思えるような挑戦を考えてもらいました。全員で話し合って出てきたのは世界旅行でした。世界中を旅したいけれど、資金がまったくありません。タダで世界を旅するなんて、とても無理だと思えます。次に、これを実現するのに、最悪と思える案を考えてもらいました。多くのアイデアが出ましたが、そのなかのひとつが、プライベートジェットを予約して料金を後払いにする、というものでした。ばかばかしく、到底理屈に合わないアイデアに思えます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、第1四半期は金融事業好調で増収 通年予想

ビジネス

英財政赤字、昨年度は1207億ポンド 公式予測上回

ワールド

中国、2040年以降も石炭利用継続 気候目標に影響

ワールド

北朝鮮ハッカー集団、韓国防衛企業狙い撃ち データ奪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中