最新記事

政治

トランプは、ヨーロッパを不安にさせる「醜いアメリカ人」

2015年12月15日(火)19時23分
アダム・リボア

 トランプの台頭は、テロリズムや移民危機、ロシア、中東などに対する恐怖を煽る政治が影響力を持つことを表している、とグレイマーは指摘する。「アメリカ人は、これがヨーロッパに与える影響を正しく評価していない。われわれヨーロッパ同盟国は、米国の世論に注目している。トランプは連日のように見出しを飾っており、現にわれわれのアメリカに対する認識は、この予備選挙を通じて変わってきている」

 トランプは、ポピュリズム(大衆主義)的なレトリックを超えてさらに危険な橋を渡っている、とアナリストたちは言う。「偏見に根ざした憎悪が常態化し、そういう発言も普通になってしまった」 

 こうしたアメリカの風潮にうまく乗ったのがトランプなのだ。

 自分たちさえよければいいという党派心に基づいた発言は、暴力につながる恐れをはらんでいると、ヘリヤーは警告する。「現実にヘイトクライム(憎悪犯罪)や脅迫、放火などが増加しており、アメリカ人イスラム教徒の生活に実際の影響が出てきている。もしヨーロッパの政治家がユダヤ系の人々に対して同様の発言をすれば総スカンを食らうだけでなく、全ヨーロッパ人の敵とみなされるだろう」

ISISには理想のアメリカ大統領

 トランプの発言が歓迎される場所が1つある。それはISIS(自称イスラム国、別名ISI)が首都と自称するシリアのラッカだ。「トランプの最も過激な発言が、アルカイダやISISが正しいことを証明しているようにみえる」と、戦略国際問題研究所のアンソニー・コーズマンは言う。「トランプを見たイスラム教徒は、アメリカはイスラム教徒もイスラム教も敵視していると思うだろう。トランプはISISにとって理想のアメリカ大統領だ」

 トランプは怒りと憎悪の政治の象徴で、それはISISの思うつぼだと、反テロリズム・シンクタンク、クイリアム基金のハラス・ラフィクは言う。ISISのやり方は常に、人々を曖昧な立場から引きずり出して、白と黒に二分された世界に放り込むことだ。トランプのおかげで、今やISISは勧誘でこう言える。「ほら見ろ、自由世界の大統領になるかもしれない男が、イスラム教徒は来るな、と言っている」

 ヨーロッパの歴史は、少数の過激派を許容することの危険を教えている。「以前にも見たことがある。トランプなど大統領選の道化役だと笑い飛ばす人がいる。第一次大戦後のヨーロッパで、人々がヒトラーを道化と片付けたのと同じだ」と、ラフィクは言う。

 トランプはいずれ消えるかもしれないが、より深い問題は残る。極右であれ極左であれ、自由な民主主義社会を軽侮し覆そうという人々が力を得てきているということだ。トランプ発言の産物だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

BRICS首脳会議、ガザ・イランへの攻撃非難 世界

ビジネス

日産、台湾・鴻海と追浜工場の共同利用を協議 EV生

ワールド

マスク氏新党結成「ばかげている」、トランプ氏が一蹴

ワールド

米、複数の通商合意に近づく 近日発表へ=ベセント財
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中