最新記事

ニュースデータ

メディアへの信頼度が高いだけに世論誘導されやすい日本

2015年10月27日(火)16時40分
舞田敏彦(教育社会学者)

 さらに多くの国々と比較して、世界の中での日本の位置付けを見てみよう。横軸に新聞・雑誌、縦軸にテレビへの信頼率を取った座標上に、調査対象の59か国を配置すると、<図2>のようになる(英仏は調査に回答せず)。

maita151027-chart02.jpg

 右上には旧共産圏やイスラム圏の社会が位置している。報道に対する政府の干渉が強い国々にも関わらず、メディアに信頼を寄せる国民の比率が高い。日本も同じゾーンにあり、マスメディアに対する信頼度が高い部類に入る。欧米諸国と比べると、格段に高いことがわかる。

 メディア関係者にとっては名誉かもしれないが、一抹の不安は拭えない。マスメディアは無数の人々に情報を瞬時に伝えてくれるが、発信者がチョイスした情報が一方的に伝達されるので、思想統制の手段として使われる危険性もあるからだ。

 現代の日本では、情報の受け手は個々バラバラに分断された大衆だ。そのため、人々は何らかの「よすが」を求めることになる。マスメディアへの信頼度の高さはその表れとも言えるだろう。

 メディアが一方的に大量伝達する情報によって、大衆は思想や心理を簡単に操作される(歪められる)。内閣府の『少年非行に関する世論調査』(2015年7月)によると,国民の8割近くが「非行は増えていると思う」と答えているが、統計でわかる事実はその逆で、少年非行は減少している。少年犯罪を伝えるセンセーショナルな報道に影響されているのだろう。このように歪められた世論に押されて政策が決められるとしたら、甚だ恐ろしいことだ。

 自分の頭で考えるのは億劫だ、頼ることのできる情報が欲しい......。日本社会には、そのような思考が蔓延しているのかもしれない。メディアで大量伝達される情報を鵜呑みにせず、自分の頭で考える。情報化が進んだ現代社会では、そんなあたり前のことが極めて重要だ。学校の情報教育でも、「メディア・リテラシー」を重視する必要があるだろう。

<資料:『世界価値観調査』(2010~14年)

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ

ビジネス

完全失業率3月は2.5%に悪化、有効求人倍率1.2

ワールド

韓国製造業PMI、4月は約2年半ぶりの低水準 米関

ワールド

サウジ第1四半期GDPは前年比2.7%増、非石油部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中