最新記事

天安門

「自信なき大国」中国の未来

2014年6月4日(水)12時16分
長岡義博(本誌記者)

陳破空氏

「日本は謙虚過ぎてはいけない」と語る陳破空氏

cleardot.gif

──最近出版されたあなたの著書『日米中アジア開戦』(文春新書)を読んでいると、同意できる部分もありますが、同意しかねる部分もある。例えば、「日本人は腐敗した人民解放軍を恐れる必要はない」「仮に日本と中国が戦争になっても、決して自衛隊は中国軍に負けない」というような記述は、日本人に「中国と戦争できる」という誤解を広げることになりませんか?

 共産党はその初期のころには高い理想がありました。彼らは死を恐れず、人民解放軍は国共内戦や朝鮮戦争でも勇敢に戦いました。しかし、解放軍は今とても腐敗しています。この腐敗ぶりは外部からはとても想像できない。

 中国は独裁政権ですが、独裁政権には「国内では国民に対して圧政を敷き、国外では膨張をはかる」という特徴があります。例えばロシアは民主化したばかりのころは対外拡張の動きがありませんでしたが、プーチン大統領が独裁体制を固めたとたんにグルジア、ウクライナへの拡張を始めた。中国政府も同じです。国内では人民を抑圧する一方で、東シナ海や南シナ海への拡張を進めている。ベトナムやフィリピンをいじめ、日本を威嚇しています。

 中国は政府も軍隊も腐敗していて、必ずしも日本が負けるとは限りません。それなのに、もし日本が中国を過剰に恐れてしまうと、中国政府は一歩また一歩と日本、そしてフィリピンやベトナムを押し込んできます。これは恐ろしいことです。私は国際社会が団結して中国に向き合うべきだと考えます。彼らを後退させ、さらには民主化させる。もし25年前に民主化が実現していたら、このような事態にはなっていない。中国の民主化は中国の国民だけでなく、世界の人々にとってもいいことなのです。

──1972年の日中国交正常化以降、日本にはしばらく「戦争責任があるから、とにかく日本は中国には謝罪しなければならない」という雰囲気が強くありました。ただ、中国は当時とは大きく変わった。われわれが中国と向き合う姿勢も当然変わるべきです。

 日本が中国に謝罪したことは誤りではありません。ただ、中国政府は国民に日本政府が謝っていることをまったく伝えてこなかった。彼らは教科書やメディアを完全にコントロールして、「日本はこれまで中国にまったく謝罪してこなかった」と嘘をついてきました。毛沢東も田中角栄首相が会談で謝罪したとき、「あなたたちのお陰で共産党は内戦に勝利することができた。謝る必要はない」と語っていた。しかし、中国の国民はこれまでまったく毛沢東のこういった言葉を知りませんでした。

 この60年以上、日本は平和国家としてこれまでほかの国と戦争してきませんでした。逆に共産党の中国は戦争ばかりしてきた。インドと戦いベトナムと戦い、韓国・アメリカと戦争したこともあるし、ソ連とも戦った。なぜ、60年以上平和を守って来た日本が反省しなければならないのか。逆にずっと戦争を続けてきた中国はなぜ反省しないのか。毎年軍事費が10%以上増えている中国が、なぜ5年間で5%も伸びない日本を軍国主義呼ばわりするのか。とても不公平です。

──日本は戦争を恐れるべきでないかもしれない。ただ、同時に戦争の怖さも意識すべきでは?

 日本は平和主義の民主国家です。日米安保条約もある。日本が主導的に戦争を始めることはないでしょう。ただ戦争を避けるということと、中国や共産党に対して縮こまることは違う。自らの軍事力を否定するのも間違いです。一方、中国は何の圧力もない中、軍事費を増やし続けてきた。その結果、日本やアジアの国が脅威を感じている。戦争を始めるのは日本ではなく中国です。日本はアメリカや周囲の国と協力して、中国に向き合うべきです。日本が強大になって初めて、共産党は日本を脅威に感じ、戦争を起こしたくないと考える。

──あえて聞きますが、あなたは日本と中国の戦争、あるいはアメリカと中国の戦争をあおることで共産党政権を倒そうとしているのでは?

 私は中国と日本、中国とアメリカの戦争で共産党が崩壊することを望んではいません。ただ私は共産党崩壊の可能性はあると考えます。その原因の1つが外国との戦争です。清朝は改革や憲政の導入を拒否したうえで、外国と戦争を起こし、最後は辛亥革命で倒されました。現在の共産党は清朝の歩んだ道を繰り返す可能性があります。政治は腐敗し、改革を拒み、文明社会に加わることを拒否する──こういう状況では、外部との戦争が中国を変える可能性があります。ただこれは私の希望ではなく、客観的な分析です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏資産6000億ドル、史上初 スペースX評価

ビジネス

米エヌビディア、オープンソースの最新AIモデル公開

ワールド

トランプ氏、香港紙創業者の有罪「残念」 中国主席に

ワールド

ゼレンスキー氏、ロシアが和平努力拒否なら米に長距離
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中