最新記事

中国外交

ナチス利用で反日をたくらむ中国にドイツは迷惑顔

習のホロコースト施設訪問を断ったドイツは過去からの「卒業」を目指している

2014年3月11日(火)15時16分
ジェーソン・オーバードーフ

下心 ドイツを称賛し、日本批判を繰り広げたい中国の習近平 Jason Lee-Reuters

 ヨーロッパでは、外交でうまく立ち回るために忘れてはならない鉄則がある──「第二次大戦について語るな」。

 だがドイツ(と日本)にとって不幸なことに、中国はこれを知らないらしい。

 今月末にドイツ訪問を予定している中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、是が非でも先の大戦について触れたいようだ。ロイター通信によれば、中国側はベルリンのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑を訪問して記者会見を開きたいと要求したが、ドイツは拒否したという。

 中国の狙いはナチスの暴虐についてドイツを非難することではない。むしろ戦後何十年にもわたって反省を重ねてきたドイツを褒めちぎり、それとは対照的に中国の思うように謝罪しない日本を執拗に批判することだ。

 だがスイスのザンクトガレン大学の政治学部長ジェームズ・デービス教授は、中国の思惑はドイツの神経を逆なでするだけだと指摘する。「地域の大国にのし上がろうとする中国の企てに引き込まれるのは、ドイツにとって何の得にもならない。まして中国と日本の板挟みにもなりたくない」

 中国が第二次大戦を持ち出すのは、これが初めてではない。12年にポーランドのアウシュビッツ強制収容所跡を訪問した当時の温家宝(ウェン・チアパオ)首相は、日本に当て付けて「歴史を記憶する者だけが良き未来を築くことができる」と述べた。

 中国は今年1月には、初代韓国統監だった伊藤博文を暗殺した朝鮮独立運動家、安重根(アン・ジュングン)の記念館をハルビンに建立。歴史問題で韓国と徒党を組み、日本を守勢に立たせる狙いだ。

「歴史カード」には限界も

 中国の専門家によれば、歴史問題をめぐる争いには過去の清算以上の意味合いがある。中国は戦争中の日本の残虐行為に焦点を当てることで、安倍政権の軍備増強や地域の覇権国家を目指すという野心を打ち砕きたい。日本の戦争犯罪について語れば、中国の軍事力拡大と地域の覇権に対する野望を正当化し、注意をそらすこともできる。

 とはいえ「中国の指導部は『歴史カード』の限界も分かっている」と、中国政治に詳しいジャワハルラル・ネール大学のスリカンス・コンダパリ教授は言う。「チベット族やウイグル族が後に、同じような問題を指導部に突き付けるかもしれないからだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イタリアが包括的AI規制法承認、違法行為の罰則や子

ワールド

ソフトバンクG、格上げしたムーディーズに「公表の即

ワールド

サウジ、JPモルガン債券指数に採用 50億ドル流入

ワールド

サウジとパキスタン、相互防衛協定を締結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中