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国連の限界をさらした北朝鮮「人権」報告書

2014年3月5日(水)15時46分
前川祐補(本誌記者)

 ただこういった証言をする脱北者は、既に数万人規模に達している脱北者全体のごく一部にすぎない。数万人の国民が恐怖から逃れるため脱出している現状が、北朝鮮の実態を何より雄弁に物語っている。

「そもそも内政の話だとして、人権問題と捉えることに懐疑的な加盟国もあった」と、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの政策提言ディレクター、ジュリー・デリベロは言う。北朝鮮と友好関係にある中国だけではなく、南アフリカやインドネシア、エクアドルなどがそうだ。「彼らを説得するのに10年以上もかかった」

「寄り合い所帯」の宿命

 意思決定の遅さの原因は、組織の成り立ちにもある。寄り合い所帯ゆえ主体性がないのだ。

「調査委員会の設置を決めたのは『国連』ではなく、あくまで人権理事会を構成する加盟国だ」と、国連人権高等弁務官事務所(UNHCHR)の広報担当セドリック・サペイは強調する。「どのような考えで委員会の設置を決めたのかは、それぞれの加盟国に聞かなければ分からない」

 国連調査委員会のマイケル・カービー委員長は記者会見で、「現代の世界で比類ない」と、ナチスも引き合いに出しながら強い口調で北朝鮮の人権侵害を非難した。だがどれだけ声高に批判しようとも、中国が拒否権を持つ限り国連による問題解決には多くを期待できない。

 金正恩(キム・ジョンウン)第1書記はそのことをよく分かっているはずだ。だから安心してバスケットボール観戦を楽しんでいるのだろう。

[2014年3月 4日号掲載]

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