最新記事

中国政治

共産党が盗んだ薄煕来の重慶モデル

収賄罪などに問われた元重慶市トップの初公判が始まったが習近平国家主席らは彼のカリスマ政治にあやかろうと必死

2013年9月3日(火)15時50分
ザカリー・ケック

まるでロックスター 山東省の済南地裁で開かれた簿の初公判(8月22日) Reuters

 収賄と横領、職権乱用の罪で起訴された中国の元重慶市トップ、薄熙来(ボー・シーライ)の初公判が先週始まった。薄はこれで権力の座から完全に引きずり降ろされるはず、だった。

 しかし「重慶モデル」と呼ばれる薄の政治手法は、共産党の最高指導部によってひそかに受け継がれている。習近平(シー・チンピン)国家主席が重慶モデルの政治的側面を、李克強(リー・コーチアン)首相が社会経済面を見習っているようなのだ。

 薄は共産党には珍しいカリスマ政治家だった。本来の魅力に加え、巧みなイメージ戦略を駆使して人気を得てきた。ジャーナリズムの学位を持ちメディア業界に精通。中国の一般的な政治家よりもはるかに率直で、歯切れがいい。共産党の冴えない集団の中で、異彩を放つロックスターのような存在だった。

 そんな彼のやり方を、習は昨年11月に共産党総書記に就任してからまねようとしている。薄と同様、習も民衆に近い指導者像を演出。地方を訪れたときは住民に気さくに話し掛け、軍事基地の視察では兵士たちと食事を共にすることもある。

 外遊先には人気歌手でもある夫人、彭麗媛(ポン・リーユアン)を同伴。夫妻のために催された晩餐会では、彭がバンドに飛び入り参加して歌を披露することもある。

 薄はロックスター的なイメージをつくり上げる一方で、大々的な腐敗撲滅キャンペーンを張り、市の職員たちに倹約生活を促した。習も国家主席として、腐敗撲滅を最優先事項に掲げて取り組んできた。公費の節約にも努め、民衆と対話するよう共産党職員に呼び掛ける。

 薄の「貧しい親戚との絆を取り戻そう運動」に似せて、習は人民解放軍や政府の高官に前線の下士官と2週間過ごすよう命じた。薄が毛沢東回帰を目指して「革命歌を歌う」運動を展開したことは物議を醸したが、習も毛沢東政策の一部を採用している。

市と国の経済規模は違う

 重慶モデルの社会経済的な側面は、李が率先して導入している。薄が重慶市の党委書記を務めていた時代、同市は驚異的な成長を遂げた。08年の経済危機と時期が重なっていたにもかかわらず好況に沸き、その牽引役はインフラ投資と国外からの直接投資だった。後者は、外国企業への補助金や低い法人税などの政策で呼び込んだ。

 重慶の成長モデルで最も注目すべきなのは、薄が格差是正に力を入れたことだ。国際コンサルティング会社オックスフォード・アナリティカのリポートによれば、薄の重慶市党委書記時代に、同市の国有企業が中国で最も多くの税金を納めたという。薄は国有企業からの税収や借入金を低所得者向け住宅に投資する一方、重慶で働く出稼ぎ労働者への居住許可を拡大した。

 李の経済政策には同様の手法が使われており、今後もさらに薄の手法を取り入れていくとみられる。李の肝煎りの「上海自由貿易試験区」がその好例だ。これは世界レベルの通商・通信施設と免税環境を国内外の企業に提供することで、投資を呼び込む試みだ。

 また全国的にみれば、スラム街の再開発や交通インフラの整備などによる内需拡大が実行に移されている。

 とはいえ、重慶市レベルの経済目標と国家レベルでのそれは大きく異なる。薄の政策は多額の借金と投資に依存していたが、いずれも今の中国政府が回避しようとしているものだ。

 特に開発の遅れた内陸部など投資先を絞り込めば、李はこれまでの指導部よりも高い投資成果を挙げられるかもしれない。これ以上の赤字は中国経済のリスクを高めるだけだ。

From GlobalPost.com特約

[2013年9月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中