最新記事

日韓関係

オバマへの「直談判」で深まる朴のジレンマ

国内の反日感情に配慮するあまり、日本との協力関係を犠牲にした代償は

2013年5月22日(水)18時02分
前川祐補(本誌記者)

「隠れ親日派」 ワシントンでレッテル剥がしには成功した朴だが Jason Reed-Reuters

 先週、就任後初となる外遊でアメリカを訪れた韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領はさぞかし胸をなで下ろしただろう。米上下院合同会議で行った英語での演説では6回ものスタンディングオベーションを受けたのだから。

 朴は大統領就任後、閣僚人事の長期化で政治空白を生んだことや、北朝鮮によるミサイル危機に際して北に対話を提案したことが「弱腰外交」だとして批判された。支持率が就任後1カ月もたたないうちに30%台と低迷した時期もあったため、今回の外遊デビューがひとまず成功したことで、朴は1つのハードルを越えた。

 演説で朴は「歴史が見えない者は未来が見えない」と発言。名指しこそ避けたが、日本を痛烈に批判した。アメリカに日韓の歴史問題の解決協力を「直談判」した形だ。しかし、朴はこの発言でかねてから陥っていた「親日派のレッテル剥がし」と北朝鮮政策との間の矛盾をさらに深めてしまった。

 父の朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が親日派として知られていたことから、韓国内では槿恵も心の奥では親日派に違いない、という見方が根強い。そのため朴は大統領選挙活動中から繰り返し反日を訴え、レッテル剥がしに躍起になっていた。「大統領就任後も必要以上に歴史問題などを取り上げることで『親日疑惑』をかわしている」と、韓国政治に詳しい静岡県立大学の小針進教授は指摘する。

 朴の歴史問題発言は、韓国メディアから一定の評価を得た。だが朴が反日色を積極的に打ち出すほど、実は韓国の北朝鮮政策に障害が生じてしまう。

 北朝鮮は将来、韓国との和平を実現する場合、韓国に多額の経済協力を求めてくる。そのため韓国にとって「日本の資金協力は不可欠な要素だ」と、小針は言う。歴史問題で日本政府を批判すれば、北朝鮮政策における日本との協力関係に水を差し、韓国が期待する日本マネーが逃げてしまう。一方で朴が反日をやめれば「やはり正体は親日派だった」との批判が国内で出かねない。

 日本批判をやめれば親日のレッテルが貼られ、続ければ北朝鮮問題の解決が遠のく──。日韓間の亀裂の存在をよりによって同盟国のアメリカで世界に向けて披露したことで、朴は矛盾の泥沼から抜け出せなくなった。

 朴の歴史問題発言でほくそ笑んでいるのは、実は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記なのかもしれない。

●特集「韓国の自滅外交」は、発売中の本誌または本誌デジタル版

[2013年5月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

金融政策の具体的手法、日銀に委ねられるべき=片山財

ビジネス

全国コアCPI、10月は+3.0%に加速 自動車保

ビジネス

貿易収支、10月は2318億円の赤字 市場予想より

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米株安の流れ引き継ぐ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中