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領有権問題

沖縄だけじゃない、中国の果てなき領土エゴ

北朝鮮の聖地も「わが国土」と主張する中国を待つ大きな落とし穴

2013年5月13日(月)18時21分
J・バークシャー・ミラー(米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員)

綱渡り 領有権問題で中国が強硬姿勢を変える気配はないが Petar Kujundzic-Reuters

 昨年11月、アメリカでバラク・オバマ大統領が再選された1週間後、中国でも新体制が発足した。しかし新指導部の前途には、内政でも外交でも数多くの難題が待ち受けている。それらの問題にどう対処するかが、アメリカ、日本、ロシア、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)などとの今後の関係を左右するだろう。

 外交面では相変わらず、領有権問題で近隣諸国に対して強引な政策を取っている。南シナ海ではスプラトリー(南沙)諸島をめぐってベトナム、フィリピン、台湾、マレーシア、ブルネイと、東シナ海では尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐって日本ともめている。さらにインドとも、同国北部カシミール地方で中国が実効支配するアクサイチンおよび北東部アルナチャルプラデシュ州の領有権をめぐって対立している。

 小国ブータンとの間でも、国境線をめぐる対立が長期化している。それほど知られていないものの、黄海の小さな暗礁である「蘇岩礁」(韓国名・離於島)をめぐっては韓国(および北朝鮮や台湾)と争い、自国の排他的経済水域(EEZ)にあると主張している(ただし、国連海洋条約では水面から頭を出していない暗礁は領土として認められていない)。

 中国はしばしば領有権問題での強硬姿勢を非難されているが、強情なのは中国だけではない。例えばあまり話題には上っていないが、中国と北朝鮮は中朝国境にまたがる活火山「白頭山」(中国名・長白山)の管轄権をめぐって潜在的に対立している。

 白頭山は朝鮮半島の多くの人々にとっては聖地だ。伝説によれば、最初期の朝鮮国は白頭山に建国された。北朝鮮の現代史においても重要な位置付けにある。白頭山は金正日(キム・ジョンイル)前総書記生誕の地とたたえられているからだ(ただし旧ソ連の資料によれば金正日はロシア生まれ)。白頭山は第二次大戦中の抗日運動の拠点でもあった。

スポーツ界にも飛び火

 北朝鮮と中国は62年(一説には63年といわれる)、秘密裏に中朝国境条約を締結。白頭山周囲の土地を分割することで合意し、現在は山頂のカルデラ湖の北西側を中国領、南東側を北朝鮮領としている。

 しかし中国とソ連が対立し、それぞれが北朝鮮に何とか取り入ろうとしていた当時に結ばれたこの条約では、残念ながら国境問題に終止符を打つことはできなかった。

 中国は近年、空港やスキーリゾートの建設など、白頭山一帯の開発を急ピッチで進めており、領有権の主張を強化するための動きではないかと警戒する見方もある。08年にはこの一帯をユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録申請して、さらに物議を醸した。同じ頃、中国がこの地域への18年冬季五輪招致に立候補することを検討したことも、火に油を注いだ。

 話をさらにややこしくするのが、北朝鮮でなく自国が朝鮮半島の唯一の正統な政府と主張する韓国の存在だ。韓国も白頭山一帯の領有権を主張し、中国は開発とインフラ整備を控えるべきだと主張し続けている。07年に中国の長春で開かれた第6回アジア冬季競技大会では、スケートの韓国代表5人が表彰式で「白頭山はわが領土」と書かれたプラカードを掲げた。

 韓国の「スポーツ愛国主義」の発露は1度ではない。日本や北朝鮮と領有権を争っている竹島(韓国名・独島)についても、昨年夏のロンドン五輪で、サッカーの韓国代表が日本代表を破った直後に「独島はわが国の領土」と書かれたプラカードを掲げる一幕があった。

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