最新記事

アジア

中国の足を引っ張る北朝鮮の挑発行為

北朝鮮の脅威が中国の防衛戦略を台無しにする

2013年4月23日(火)15時27分
ハリー・カジアニス(ディプロマット誌編集長)

軍事パレード 射程6000キロと推定される長距離ミサイルを公開(12年4月) Bobby Yip-Reuters

 ここ数年のアジアの軍事動向で最も興味をそそられたのは、中国が増強を図る「接近阻止能力」。「米空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイルから静音性を向上させたディーゼル式潜水艦、サイバー攻撃力などを駆使して、有事の際の敵軍の接近を阻止しようというものだ。

 すべては、米政府によるアジア駐留米軍の「再編」を受けて、対米戦を想定した動きだ。だが図らずも、同盟国である北朝鮮が中国のこうした戦闘力を損なうことになるかもしれない。

 北朝鮮はこの数週間、アメリカや韓国に対する挑発を繰り返し、世界を不安と恐怖に陥れている。対するアメリカは韓国との合同軍事演習にB52爆撃機やF22ステルス戦闘機を投入。敵対的な発言を続ければ深刻な事態を招くと北朝鮮を牽制した。韓国政府も攻撃を受けた場合には、軍事的報復も辞さない方針を明らかにした。

 北朝鮮は好戦的なレトリックだけにとどまらず、中距離弾道ミサイルの発射実験をまた計画しているとも伝えられる。となれば、アメリカは日本や韓国と連携して、北朝鮮の(性能を増しているかもしれない)ミサイルに対処するための長期的な戦略を立てないといけない。

 実際アメリカは、自国や同盟国の軍隊と民間人を守るために、ミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」や海上配備型高性能レーダー「SBX‐1」などを移動させ、グアム防衛には戦域高高度地域防衛システム(THAAD)を配備すると発表した。

アジア重視の軍事的意味

 北朝鮮とアメリカによるこうした軍事力の誇示や強気の発言を逐一分析することは確かに重要だ。だが同時に、北朝鮮の挑発的言動が東アジアの長期的軍事バランスにどのような影響を与えるのかを、よく精査する必要がある。

 アメリカはこの2年間、地政学的重点をアジアに移してきた。米政府は「方向転換」または「再編」と控えめな呼称を使うが、そこには極めて重要な軍事的戦略が含まれている。海・空軍を中心とする「海空戦構想」、それに陸軍と海兵隊も統合した「統合作戦アクセス構想」などは明らかに中国の接近阻止能力を念頭に置いたものだ。

 アメリカはこれまでアジアに軸足を移す軍事的根拠を曖昧にしてきたが、北朝鮮による挑発行為はまさにその口実を与えてくれるかもしれない。今後数カ月で緊張が和らいだとしても、アメリカは東アジアに配備するミサイル防衛システムをこれまで以上に増強し、北朝鮮の脅威に備えようとするだろう。

 アメリカの同盟国も足並みをそろえる可能性がある。日本政府は専守防衛からの脱却を検討しているが、北朝鮮問題は防衛費をさらに増やすための決定的な口実になり得る。

 日本はまた、北朝鮮のミサイル能力を理由に、ミサイル防衛に関してアメリカとの連携を強化すべきと考えるだろう。そして最も現実的な脅威にさらされている韓国は、安全保障における日米韓の連携をこれまで以上に重視するはずだ。
 
 影響は中国にも及ぶことになる。東アジアのミサイル防衛システムが増強されれば、中国の接近阻止能力が損なわれるのは明らかだ。東アジアの米軍基地や同盟国を守るミサイル防衛システムは遠い将来、中国と何らかの争いが起きたときに使われる可能性もあり、その防衛力がこの機会に強化される可能性もある。

 中国がどう巻き返しを図るのかは定かではない。ただ確かなのは、北朝鮮の挑発行為が東アジアの軍事バランスに今後長く影響を与えること、それが北朝鮮の長年の友である中国にプラスに働くことはないことだ。

From the-diplomat.com

[2013年4月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

お知らせ=重複記事を削除します

ビジネス

高市首相、18日に植田日銀総裁と会談 午後3時半か

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合

ワールド

ポーランド鉄道爆破、前例のない破壊行為 首相が非難
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中