最新記事

ユーロ圏

お笑い芸人の躍進でイタリアは再選挙へ?

イタリア人が総選挙で勝たせたのは「壊し屋」だった

2013年3月21日(木)13時07分
ポール・エイムズ

矛盾の人 左派と右派のポピュリストを混ぜたようなグリッロ Giorgio Perottino-Reuters

 先月のイタリア総選挙では、いつもと代わり映えのしないテレビ討論会が繰り広げられた。パリッとしたスーツ姿の男性候補者2、3人が国債利回りや労働市場の自由化について質問を受ける。短いスカートをはいた美しい女性は司会者、さもなければ紅一点の討論参加者だ。

 新政党「五つ星運動」を率いるベッペ・グリッロはそんなテレビスタジオには近づかなかった。代わりに毒舌ブログやツイッターを駆使し、キャンピングカーで全国を回って人々に直訴。銀行や多国籍企業、既成政党やエリート層を激しく攻撃した。

 結局、大衆の心をつかんだ五つ星運動は大躍進。下院で単独第1党となり、上院で4分の1近い得票を得た。下院で過半数を占めたピエルルイジ・ベルサニ率いる中道左派連合も上院では過半数に達せず、グリッロか、ベルルスコーニ前首相の中道右派連合と手を組む必要がある。

 政界のキングメーカーとなって大喜びのグリッロは接近を試みるベルサニを嘲笑し、連立話も拒否。連立協議が難航するなか、再選挙の可能性も出ている。
イタリアは政治腐敗の一掃と景気回復を必要としている。公的債務の対GDP比は127%と世界有数で、成長率はジンバブエやハイチを下回る世界最低レベル。しかし、経済はグリッロの得意分野ではなさそうだ。選挙綱領では「国民給与」の名目での現金配布、評判の悪い税金の廃止などをうたったが、財源については曖昧なままだ。

 彼の支持者の多くは、左派の反グローバル主義者。だがグリッロは選挙戦で、現状に不満を抱くネオファシズムの若者の取り込みにも力を入れた。「彼の政策には、極左と右派ポピュリストの要素が入っている。奇妙な組み合わせだ」と、ヨーロッパ外交評議会の客員研究員のマッティア・トアルドは言う。

 本人も矛盾に満ちている。特権階級にかみつきながら、環境保護派の票が離れそうになるまで愛車はフェラーリだった。犯罪歴のある人物が議員になれないようにする法改正を約束するが、自分も自動車の死亡事故を起こしたことがある(そのため今回は立候補しなかった)。

 そんなグリッロがイタリア政治を麻痺させることがあれば、世界第8位の経済大国がギリシャのように破綻する危険もある。そうなればユーロ圏ばかりか世界経済もイタリア有権者の選択に泣かされることになる。

[2013年3月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官

ワールド

米台貿易協議に進展、台湾側がAPECでの当局者会談
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中