最新記事

中国政治

薄煕来の処分から占う中国新体制

党籍剥奪という厳しい処分は、対日強硬路線と同様、新指導部人事を巡る権力闘争の表れだった

2012年11月6日(火)15時17分
長岡義博(本誌記者)

世代交代 胡錦濤(左)から習近平へのバトンタッチは動かないが Alfred Cheng Jin-Reuters

 重慶市副市長がアメリカ総領事館に駆け込む、という前代未聞の不祥事で中国共産党指導部に激震が走ってから8カ月。共産党は先週、ようやく胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席から習近平(シー・チーピン)副主席へトップの座をバトンタッチする党大会を11月8日に開くと発表した。

 2月の駆け込み騒動以来、指導部は重慶市トップだった簿熙来(ポー・シーライ)のスキャンダルで大揺れに揺れてきた。騒動をきっかけに薄の妻によるイギリス人毒殺事件が暴かれ、事件は薄自身の解任劇へと拡大。そのあおりを受け、薄が目指していた社会主義回帰路線と、胡や温家宝(ウェン・チアパオ)首相が支持する成長・開放重視路線の対立が表面化した。

 従来は8月末に行われる党大会の日程発表がここまでずれ込んだのは、党内対立のあおりで駆け引きが複雑化し、新指導部の人事がなかなか固まらなかったため、とみられている。これまで9人だった最高指導部に当たる政治局常務委員の数が7人に減るという見方もあるが、肝心の人選は党大会最終日まではっきりしないだろう。

 ただ、新体制を探るヒントはある。党大会の日程と同時に公表された薄の最終処分だ。薄は党籍を剥奪、一切の公職から追放された上で、収賄などの犯罪行為を司法機関から追及されることになった。

 当初は党籍を剥奪されないという見方もあった薄に厳しい処分が下ったのは、後ろ盾だった保守派が対立する胡に押し切られたことを意味する。勢いを得た胡は前任者ののように、しばらく軍トップの座に居座り影響力を残すかもしれない。胡が尖閣問題で反日デモを容認し、日本に強硬姿勢を示したのも、対立する保守派をにらんだ動きだった可能性がある。

 もっとも、胡自身も決して無傷ではない。側近の息子がフェラーリの無謀運転で事故死し、この側近が降格されるという不祥事も発生。習や李克強(リー・コーチアン)副首相の選出はほぼ動かないが、それ以外の人選は保守派との妥協の産物になるかもしれない。

 今回、党大会開催を発表する新華社の文章から、従来は必ず書かれてきた「毛沢東思想を堅持する」という表現が消えた。毛沢東をシンボルに掲げた社会主義回帰路線の排除を強調するためとみられるが、共産党が建国の最大の功労者と位置付ける毛を抹消するのは一大事だ。

 それほど今回のスキャンダルが党にとって深刻だった、ということだろう。

[2012年10月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、金融安定リスク大幅拡大に警鐘 貿易巡る混乱

ワールド

米国務省を抜本再編、トランプ政権 無駄な部署廃止=

ワールド

中国外相、英・EUに多国間貿易体制擁護呼びかけ 米

ワールド

米、インド向けエネルギー・防衛装備の販売拡大を検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中