最新記事

北朝鮮

偽ディズニーショーから始まる金正恩の大改革

ハリウッド風のショーや西側ファッションの流行は、若き「独裁者」金正恩の開放性の表れか

2012年7月17日(火)15時10分
アダム・テイラー

笑顔の真意は 亡父・金正日の頃にはなかったトレンディな話題を振りまく正恩 Bobby Yip-Reuters

 父金正日(キム・ジョンイル)の死去で昨年暮れ、金正恩(キム・ジョンウン)が突然北朝鮮の最高指導者になったとき、この破綻国家を彼が救えると考える者はほとんどいなかった。今年3月のミサイル発射実験の手ひどい失敗は、その何よりの証拠に思えたものだ。だがこの若き指導者は世界が考えているよりずっと自立した思考の持ち主で、祖父の金日成(キム・イルソン)が建国した国を立て直すための挑戦を恐れない人物かもしれない。その証拠はいくつかある。

 朝鮮中央通信が16日に伝えたところによれば、朝鮮労働党は15日に政治局会議を開き、正恩の側近とみられていた李英鎬(イ・ヨンホ)軍総参謀長を党の全役職から解任する、と決めた。表面的な理由は病気だが、正恩が李について「権力を持ちすぎた」と考えたことがこの解任劇の本当の原因である可能性がある。

 ほかの兆候もある。正恩の指示で結成された「牡丹峰(モランボン)楽団」の今月初めの公演には、ディズニーキャラクターそっくりの着ぐるみが登場し、映画『ロッキー』のテーマが演奏された(ディズニー側は使用を許可していない)。観覧する正恩のとなりにはこれまで見たことのない若い女性が座っていた。ディズニーキャラクターやロッキーのテーマは正恩の西側文化に対する理解を、女性の同伴はこの最高指導者の人間らしい側面を示唆している。

 ファッションの変化という手がかりもある。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、おそらくは当局の同意の下、首都平壌の女性のスカート丈がどんどん短くなっているという。

 牡丹峰楽団の公演で正恩は、自分と配下の将軍たちのために演奏したミニスカート姿のバイオリンとギター奏者をたたえて親指を突き立ててみせた。こういった現象の持つ意味に関する真剣な議論も始まっている。ドイツのシュピーゲル誌は北朝鮮の変化をこう伝えている。


最近北朝鮮を訪れた人々によれば、少なくとも平壌では市民が流行のファッションに身を包んで街を闊歩している。おしゃれな服装を着ているのは学生だけではない。若い男性はまるで韓国の映画スターや歌手のような髪型を楽しんでいる。ヤミ市場では外国製の衣料品が人気で、伝統的な「韓服」もデザインや色が今風な韓国製のものが好まれている。


 正恩がこういった変化を奨励しているのであれば大ニュースだ。彼は最近、欧米スタイルのファストフード店を訪れてもいる(ハンバーガーの味はひどいものだったかもしれないが)。だがこうした変化は必ずしも正恩の「トップダウン」でがもたらしたものとは限らない――最近、北朝鮮で急速に入手しやすくなっている海賊版DVDや韓国ドラマこそが、若者ファッションの変化を後押しした「真犯人」かもしれないのだ。

GlobaiPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ルクオイル株凍結で損失の米投資家に資産売却で返済、

ビジネス

英中銀当局者、金利見通し巡り異なる見解 来週の会合

ビジネス

ネトフリのワーナー買収、動画配信加入者が差し止め求

ワールド

中ロの軍用機が日本周辺を共同飛行、「重大な懸念」と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中