最新記事

アジア

米中を出し抜くインド版の東方政策

ぶつかり合う「超大国」とは一線を画し、アジア諸国の信頼を得やすいインドの求心力が増している

2012年3月2日(金)15時25分
ジェーソン・オーバードーフ

頼れる兄貴 インドが「アジアの警察」になる日も遠くない? Jayanta Dey-Reuters

 アジアで中国とアメリカの覇権争いを繰り広げるなか、両国を出し抜いて影響力を増している国がある。インドだ。

 ジャーナリストのトレフォー・モスはアジア太平洋地域のニュースサイト、ディプロマットの記事で、インドの意外な強みがアジアでの影響力拡大をもたらしたと指摘している。

「インドは中国ともアメリカとも違う。まさにそこが強みだ」と、モスは言う。「この『第3の大国』という位置づけのおかげで、周辺国に対してはいわば頼れる兄のような役割を演じることができる。軍事面でも、米中のように真の思惑を隠したりせずに、東南アジア諸国と手を組める」

中国を牽制したい国々の「砦」

 インドの掲げる「ルック・イースト政策(東方政策)」の中身も、実はこれだけなのかもしれないが、うまく行っているのならそれで構わないだろう。今のところ、成果は上々だ。インドネシア軍とは初の共同軍事演習を実施。一方で、潜水艦隊の構築を目指すベトナムとも手を組み、同国のキロ級潜水艦乗組員の訓練を支援する見通しだ。ベトナムは昨年、南部のニャチャン港にインド軍艦の駐留を要請し、中国の神経を逆なでした。

 ビルマとの関係強化もささやかれている。1月始めにはインド陸軍のトップがビルマを訪れ、軍の連携強化などをめぐる話し合いを行った。ビルマとしては、影響力を増す中国を牽制するのが狙いではないかとの憶測も高まっている。

 一方で、インドはタイとも12月に防衛をめぐる対話を開始。1月末にはインラック首相がニューデリーを訪れ、安全保障や経済の戦略的パートナーシップを強化する意向を互いに表明した。さらに、フィリピンやシンガポールとも軍事協力関係を継続している。

 こうした一連の動きから、モスはこう結論づけている。「メディアは、アジア太平洋地域で米中が繰り広げる覇権争いばかり報じている。しかし実は、東南アジアにおいてこの1年で最も躍進を遂げたのはインドだ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍、台湾包囲の大規模演習 実弾射撃や港湾封鎖訓

ワールド

和平枠組みで15年間の米安全保障を想定、ゼレンスキ

ワールド

トルコでIS戦闘員と銃撃戦、警察官3人死亡 攻撃警

ビジネス

独経済団体、半数が26年の人員削減を予想 経済危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 10
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中