最新記事

イタリア

債務危機とカーセックスの切実な因果関係

星空の下に停めた車で愛し合う――イタリアにカーセックスが戻ってきたよんどころなき事情とは

2012年2月1日(水)15時24分
イバ・スコッチ

走る寝室? イタリア車にロマンスは付き物、とはいうものの…… Kai Pfaffenbach-Reuters

 イタリアでは車にはロマンスが付き物だった。「バンボッチョーネ」(親と同居する独身者)が社会現象となってからは、その傾向がますます強まった。カーセックスを発明したのはイタリア人ではないが、それを完成させたのはイタリア人、正確に言えばナポリのようなイタリア南部に住む人々だ。

 ナポリでカーセックスといえば、昔からマンツォーニ通りに決まっている。この通りに人々が集まるようになったのは、1958年にイタリアで売春宿が違法とされて以降のことだ。今の中高年世代は、ナポリ中の男女がここに車を停め、星空の下で愛し合っていたことを懐かしく思い出す。たいていは小さなフィアットで、シフトレバーが邪魔するのに腹を立てながら――。

 恋の楽しみにふける人々目当てに、通りには小さな物売りの店がズラッと並んだ。仮設の屋台では窓を覆うための古新聞とセロハンテープや、禁制品だったマルボロのタバコ、海賊版の音楽カセット、気分を盛り上げるためのコーヒーリキュールなどが売られていた。

3分の2が親と同居の辛さ

 取り締まりが厳しくなったおかげで一時は下火になったが、最近またマンツォーニ通りに車を止める人々が増えてきた。それにはもっともな理由がある。経済危機のおかげで現在、35歳以下の失業率は30%以上。そのせいもあって18〜34歳のイタリア人の半数以上が親と同居しているが、ナポリではその割合は3分の2を越える。彼らがちょっとしたプライベートな時間を過ごそうとしたら、車に閉じこもるしかない。

 もっとも数十年前のカーセックスの様子を覚えている人々は、今の若者のやり方を完全に見下している。フラットシート? スモークガラス? エンジンを切ってもステレオや暖房が使える? なんて女々しいんだ......。

 しかしマンツォーニ通りをよく知る30歳のリノによれば、現代のカーセックスも窮屈さに変わりはない。いくらフラットシートにしても、「シフトレバーはやっぱり悩みの種だよ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SUBARU、今期の業績予想未定 関税などで「合理

ビジネス

ソニーフィナンシャル、9月29日に上場予定 ソニー

ビジネス

東レ、今期の純利益5.2%増見込む 市場予想は下回

ワールド

タイ中銀の利下げ、景気見通し悪化が背景=議事要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 7
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 8
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 9
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中