最新記事

中東

サウジ新皇太子は高齢の超保守派

支配層の高齢化と次世代への権力移行が大きな悩み。国民の大多数は王家を支持しているというが

2011年12月22日(木)13時41分
ジョセフ・ケチチアン(ランド研究所・元上級研究員)

遠のく民主化? 皇太子に指名されたナエフは、これまで厳しい治安体制の確立に務めてきた Reuters

 サウジアラビアのスルタン皇太子が10月22日に86歳で病死。アブドラ国王(87)は直ちに、スルタンの実弟で自分の異母弟でもあるナエフ内相(78)を新しい皇太子に指名した。

 アブドラは09年、1933年生まれのナエフに「次期皇太子」を約束する第2副首相のポストを兼務させている。高齢で超保守派のナエフが選ばれたことに多くの人が驚き、支配層のリベラル派は眉をひそめた。

 サウジアラビア専門家は、アブドラがナエフを選んだのは内紛を避けるためとみる。アブドラには存命中の弟たち(初代国王の子供)がいるため、初代国王の孫の代から後継者を選べば秩序が乱れると考えたようだ。

 ナエフはアブドラより保守的で、2人の関係は良好なときもあれば悪いときもある。約40年にわたって内務畑を歩んできたナエフは、宗教指導者や部族長に働き掛けて厳しい治安体制を確立。アブドラはその強硬路線に歩調を合わせてきたが、同時に改革にも前向きだ。

 アメリカや他のアラブ諸国に対するナエフの態度は評判が悪い。それでも彼は、サウジアラビア王国を建国したサウド家の有力な一員だ。

 もっともナエフが国王になったとしても、すぐに自分の後継者を選ぶ必要がある(高齢で白血病を患っているため、王位に就く日が来ない可能性もある)。その際、弟ではなく子供たちの世代への王位継承について一族の意見が一致するかどうかは分からない。

 アブドラを悩ませてきたのは、まさにこの問題だ。アブドラは過去10年、後継者選びのプロセスを透明化すべきだという圧力にさらされてきた。

 アブドラの弟の1人であるタラル王子が率いる王族グループは、「王位を次世代にスムーズに継承させる」ための「憲法」を定め、権力闘争の可能性を排除するよう求めている。

王家と国民が名誉を共有

 アブドラはこの要求に応じていないものの、王位継承プロセスを変える必要があることは承知している。06年には、王族による委員会を設立し、投票で皇太子にふさわしい者を選ぶことを提案した。

 もっともそうした改革にもかかわらず、サウド家の権力が揺らぐ事態は断固として許さない構えだ。

 自分たちの世代の高齢化が進むなか、アブドラは政治的空白を避けるために弟や甥からなる「忠誠委員会」を設置。国王や皇太子に統治能力がなくなった場合、暫定的に必要最低限の統治に当たらせるためだ。

 忠誠委員会には内閣を解散させる権限はないが、議会も主権に関する法の改正は認められていない。サウド家に属さない者が、サウド家に属さない人物を権力の継承者に推すことはできないのだ。

 中東諸国では国民が旧態依然とした支配層に反旗を翻しているが、アブドラは君主制に対する国民の不満を何とか抑えてきた。サウド家と国内の有力部族との固い結束のおかげでもある。

 王国から立憲君主国への移行を求める声もあるが、国民の大多数は王家を支持している。その理由は、大金持ちの王族が国民に大盤振る舞いしているからだけではない。サウド家は権力の在り方を近代化し、できるだけ透明化しようとして国民の信頼を勝ち得ている。

 同じく重要なのは王家の支配は神権政治ではなく、部族の合意による統治だとしている点だ。

 アブドラは07年の演説で、サウド家は「国のものであり......国民はわれわれから生まれ、われわれと国民は国家の名誉を分かち合っている」と訴えた。

 こうした考え方はナエフにも共通のものだろう。この国には当分、「アラブの春」は訪れそうにない。

[2011年11月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中