最新記事

スポーツ

マンUを破ったオイルマネー

2011年12月9日(金)11時51分
マイケル・ゴールドファーブ

 しかし、こうしたアメリカ人富豪の資産は数十億ドル程度でしかない。一方で、プレミアリーグのチェルシーを所有するロシアの石油富豪ロマン・アブラモビッチの資産は推定212億ドルと桁違い。マンスールの個人資産は360億ドルに上る(このほかに投資ファンドの運用資産が何十億ドルもある)。

 噂によると、グレーザー家はマンUの株式をシンガポール市場で上場させて資金を集めようと考えているらしい。今年に入って、カタールの投資家グループがマンUを買収するという噂が流れたこともあった。新しい世界経済の基準に照らすと、グレーザー家の資金力は、プレミアリーグのクラブを勝たせ続けるには十分でないのだ。

 しかし、スポーツの勝利を本当にカネで買えるのか。「カネがすべてではない」と、カールソンは言う。「大リーグで選手の年俸総額が最も高いのはヤンキースとフィリーズだが、いずれも今年のワールドシリーズ出場を逃した」

次は中国人かインド人

 この点は、シティーが直面している課題にほかならない。マンスールが経営権を握ってからの3年で、監督は早くも2人目。ほかのクラブのスター選手を巨額のカネで引き抜いては、期待どおりの活躍をしないとあっさり放出するというパターンを繰り返している。

 こうしたやり方は、ファンの間ですこぶる評判が悪い。アダム・ハワードというファンはブログでこう書いた。「シティーは、選手の移籍市場を破壊し、選手がクラブに忠誠心を抱く時代を終わらせようとしているだけではない。カネで成功を買おうと突き進み、サッカーの質と精神を二の次にしただけでもない。シティーは、選手のキャリアまでぶち壊しつつある」

 長年のシティー・ファンも戸惑っている。「莫大なカネが入ってきたのは分かっているが、勝てるようになったのがまだ不思議な気分だ」と、ファンのロブ・ミンシュルは言う。

 しかしどのクラブを応援するにせよ、イギリスのサッカーファンは、外国マネーがクラブの成績を大きく左右する状況に慣れるしかない。

 自分が応援しているミドルズブラがプレミアリーグで優勝することはあり得ないと、チャドウィックは分かっている。ミドルズブラのオーナーはイギリス人のホテル経営者で、資産はチェルシーのロシア人オーナー、アブラモビッチが所有する超豪華ヨットの価値より少ない。

「21世紀のスポーツ界は、アジアの世紀」だと、チャドウィックは言う。上海やインドのムンバイの大富豪がプレミアリーグのクラブを買収するのは、時間の問題かもしれない。

[2011年11月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「大規模」関税続くとインドに警告、ロ産原

ビジネス

KKRなど、従業員との成果共有を加速 支援団体が日

ビジネス

中国新築住宅価格、9月は11カ月ぶり大幅下落 前月

ワールド

自民・維新が20日午後6時に連立政権成立で合意へ、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中