最新記事

イエメン

アウラキ暗殺でも脅威はなくならない

オバマ政権はアルカイダ幹部の殺害を自画自賛したが、反米の源泉の絶望はなくならない

2011年11月15日(火)14時36分
ウィル・オリマス

扇動者 アウラキは欧米の若いイスラム教徒に過激思想を吹き込んだ Reuters

 先週、CIA(米中央情報局)の無人機による攻撃で、イエメンに潜むアルカイダ系のイスラム武装勢力「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の幹部アンワル・アル・アウラキが殺害された。

 これで、アメリカにとって危険な男が1人減ったことになる。だがイエメンに安定が訪れるわけではないし、アメリカが今より安全になるわけでもない。

 アウラキはニューメキシコ州生まれのアメリカ人。コロラド州立大学に学び、国内のモスクで説教するうちに、どんどん過激になっていった。典型的な「米国産」の聖戦士だ。

 04年にイエメンに移ってからも、米国内のイスラム過激派に強い影響を与えてきた。09年にテキサス州の陸軍基地で銃を乱射し、13人を殺したニダル・マリク・ハサンも、昨年5月にニューヨークのタイムズスクエアで爆弾テロを起こそうとした男も、アウラキと接触があった。

 アウラキについては、「殺すほどの価値なし」とする意見もあった。アルカイダ系の組織内で特に重要な地位にあるわけではなく、現地イエメンでの知名度も低いからだ。

 しかし現地での地位や影響力はさておき、アウラキはアメリカにとって大きな脅威だった。彼は思想的な指導者でもテロ活動の首謀者でもなかったが、欧米の若いイスラム教徒たちに過激思想を吹き込む上では最も雄弁な男の1人だった。

 一方には、アウラキ殺害がアメリカへの脅威を増すという議論もある。イエメン人の反米感情が悪化し、アルカイダ工作員に志願する者が増えるだろう、というのが理由だ。だが、その心配はない。アウラキはもともと、イエメンでは無名の存在。もしも自爆テロ志願者が増えるとすれば、理由は別にある。

 人口過剰や貧困、部族間の対立、深刻な水不足など、イエメンには若者を絶望させる理由がたくさんある。「アラブの春」の余波でいったんは国外に脱出した独裁者サレハ大統領も、先頃帰国を強行した。国内は依然、一触即発の危機的状況だ。

 イエメンの抱える病は慢性的なものだ。アウラキ殺害は、その病から派生した小さな症状を1つ取り除いたにすぎない。米オバマ政権はアウラキ殺害で「アルカイダに大きな打撃」を与えたと自画自賛しているが、イエメンの慢性的な危機が続く限り、絶望が反米に転じる悪循環は断ち切れない。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年10月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界食糧価格指数、9月は下落 砂糖や乳製品が下落

ワールド

ドローン目撃で一時閉鎖、独ミュンヘン空港 州首相「

ビジネス

中銀、予期せぬ事態に備える必要=NY連銀総裁

ビジネス

EU、対ロ制裁の一部解除検討 オーストリア銀の賠償
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 6
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 7
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 8
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 9
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 10
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中