最新記事

アメリカ社会

「奴隷のシャチ」解放訴訟の法的根拠

毛皮反対運動で知られる動物愛護団体が、今度はシーワールドで飼われているシャチの解放に立ち上がった

2011年10月28日(金)15時50分
サマンサ・スタインバーン

尊厳を奪われて 海で捕獲され調教され曲芸を強制されるのは憲法が禁じた奴隷? Mathieu Belanger-Reuters

 米動物保護団体のPETA(動物の倫理的待遇を求める人々の会)が、「奴隷を囲っている」としてシーワールドを訴えた。ロサンゼルス・タイムズ紙によれば、「奴隷」とは5頭のシャチのこと。カリフォルニア州サンディエゴとフロリダ州オーランドのシーワールドで飼われているものだ。

 PETAが、カリフォルニア南地区連邦地裁に提訴したのは10月26日。サンディエゴで飼われている3頭のシャチと、オーランドの2頭を解放するよう求めている。うち1頭は、昨年2月に観客の目の前で女性調教師を襲って死亡させた「ティリカム」。5.4トンの雄シャチだ。

 今回の訴訟は奴隷制を公式に廃止し、自発的でない隷属を禁じた合衆国憲法修正第13条に基づいており、その条項は対象を「人間」とも、どんな身分の者とも限っていないというのがPETAの主張だ。「奴隷は奴隷。その性別や人種、宗教は関係ないのと同様に、種の区別もない」と、PETAの弁護士であるジェフリー・カーは声明で述べた。

 これは、動物にも憲法上の権利があると連邦裁判所に訴える初の訴訟だと思う、とカーはAP通信に語っている。

「5頭はすべて海で暴力的に捕獲され、赤ちゃんの頃に家族から引き離された」と、PETAのイングリッド・ニューカーク会長は指摘。「彼らは自由も、本来持つべき大切なものもすべて奪われ、狭いコンクリートの水槽に閉じ込められ、ばかげた曲芸をさせられている」

 シーワールド側は、訴訟は売名行為に過ぎないと断言。その声明で、シャチに憲法上の権利があるという主張は「根拠がなく、いろいろな意味で失礼なものだ」との見解を示した。

 AP通信は次のように報じている。


 今回の裁判に関与していない法律専門家によれば、訴訟が成功する可能性は低い。修正第13条起草者の本来の意図に従う裁判官なら、動物の権利を守ろうとは思わないだろう。しかしPETAは「世論という法廷」を巻き込むことを非常に好む。それは彼らが行ってきた挑発的な毛皮反対キャンペーンや、完全菜食主義の普及キャンペーンを見ればよく分かる。


GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中