最新記事

新興国

インドを悩ます食料インフレの危険な構造

経済成長率が低迷する一方で食料の価格高騰が続くインドだが、政府も中央銀行も対処できない理由

2011年9月5日(月)13時18分
ジェーソン・オーバードーフ

切実な脅威 食料価格の急騰は市民生活を直撃する(インド南部アーメダバードの市場、8月) Amit Dave-Reuters

 2011年度の成長率の見通しが8%台を下回ると予想され、「中国に次ぐ世界2番目の高成長国家」の評判が怪しくなりつつあるインド。その一方で食料価格のインフレ率は急騰し、8月には2桁の伸びを記録した。

 インドの英字紙ヒンドゥスタン・タイムズによれば、インド政府と中央銀行であるインド準備銀行は深刻なジレンマを抱えているようだ。インフレ率を抑えるために金融政策を変更すれば、経済が低迷しかねない。しかし通常の金融政策では、高騰する食料価格を抑えることなどできない。

 インド政府は、供給力を強化するために生活必需品の税率引き下げを検討することもできる。しかし、そうなれば必然的に税収が減り、財政赤字削減目標を狂わせることになりそうだ。

 プラナブ・ムカジー財務相は先週、現在のインフレ率は「気がかりだ」と語った。政府は生活必需品の供給力強化に向けた対策に踏み切ることにやぶさかではないと、暗に示唆した形だ。

貧困層が潤うと野菜が高くなる

 9月中に金融政策の第2四半期報告を発表する予定のインド準備銀行は、この16カ月間で金利を11回も引き上げてきた。それでもヒンドゥスタン・タイムズ紙によれば、10月に再び金利引き上げが行われるとみるエコノミストもいる。

 もっとも、現状はまだましだという見方もできる。食料価格のインフレ率は今年1月には18%を超えていたが、8月14〜20日の1週間では10%程度にとどまった。

 しかし、1月にグローバル・ポストが以下のように指摘した根本的な問題は今も残されたままだ。


 与党連合の統一進歩同盟は04年の1期目発足以来、「包括的成長」を推し進めては失敗を繰り返してきた。彼らのいう包括的成長とは、エリート層や中流層が富を増やすのと同時に、農村部の貧困も解消するというものだ。

 政府が採用したその場しのぎの対策は、マハトマ・ガンジー全国農村雇用保証制度(NREGS)などの社会保障事業。農村部の労働者に対して年間100日分の雇用機会を提供するものだ。

 しかしエコノミストたちの見方によれば、この制度はインフレを誘発し、特に牛乳や卵、野菜といった食料の価格上昇を招くだけ。所得が安定した貧困層がより良い食料を求めるようになり、需要と供給のバランスが崩れてしまうからだ。


GlobalPost.com 特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 7
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中