最新記事

エジプト

記者暴行事件で汚された民衆の勝利

女性にも安全なデモができたと、エジプトのイメージもアップしていた矢先の事件。民主化の前途にも暗雲か

2011年2月16日(水)16時33分
レイチェル・ラリモア

お祭りムード 襲われる直前、タハリール広場を取材するローガン記者(2月15日、カイロ) CBS News-Reuters

 ホスニ・ムバラク大統領の政権を崩壊させたエジプトの抗議運動のさなか、デモに参加する女性たちの果たす役割について語られることがたびたびあった。今回の抗議運動の間、参加する女性たちは思いのほか身の安全を感じていたようだ。その安全度はこれまでにないほどだと感じる時さえあったと、一部の報道は伝えている。

 それ自体は、エジプトでの女性の現状を物語るものではない。何しろ女性の86%が性的嫌がらせを経験したことがあるという国だ。だが、女性も安心してデモに参加していたという事実が、今回の抗議運動の好感度アップに役立っていたのは間違いない。

 そんな雰囲気に強烈な打撃を食わせたのが、15日のニュース。米CBSテレビの女性記者ララ・ローガン(39)が11日、タハリール広場でデモの取材中に暴徒に取り囲まれ、取材クルーから引き離されて、「残酷で執拗な性的暴行を受け、殴打された」という。ムバラクが辞任を表明し、同広場をはじめエジプト中に歓喜の輪が広がっていたまさにその日のことだった。

 このニュースに驚いたと言いたいところだが、実際のところ「革命」を叫ぶ騒音のさなかにも、革命後のエジプトにおける女性の行く末を案じる声は既にささやかれていた。近代化を進めた国王を追放し、かえって女性の自由が制限されるようになった1979年のイラン革命を引き合いに出す人も多かった。大規模な改革が起こるときにありがちなように、「女性は変革の証として最初は重宝され、ひと段落すると邪険にされる存在になるだろう」との声もある。

 さらに、今後政権を握る可能性の高いムスリム同胞団は世俗的なのかイスラム主義なのか、もしもエジプトにシャリア(イスラム法)が適用されるようになったら女性はどうなるのか――そんな議論も巻き起こっている。

被害者を救ったのはエジプト女性

 ローガン暴行事件の主犯を突き止めるのは容易ではないだろう。どこの世界でも、お祭りムードの時には概して愚かな事件が起こりがちなものだ。だが、路上の車を破壊して友人とビールを浴びせ合うことと、女性をボディーガードから引き離して集団で性的暴行を加えることはまったく別物だ。

 ローガンの事件は例外的なものだったのか。それとも女性を二級市民のように扱う文化の中で育てられた男たちの間では、十分考えられる出来事だったのだろうか。

 エジプトはムバラクを排除することで、急速かつ大胆に民主化の道を歩んでいるのかもしれない。だがその将来はまだ見えてこない。

 ローガンの事件に関してCBSが発表した内容の中で、ただ一つだけ希望の持てることがある。ローガンは、広場にいた女性のグループとエジプト人兵士たちによって引きずり出され、救出されたというのだ。

 新政府の元で変革の道を歩みだすエジプトにおいて、タハリール広場にいた女性たち、そして志を同じくするエジプト中の女性たちが、声をあげ続けてくれることを願ってやまない。

Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務

ワールド

OPECプラス有志国の増産停止、ロシア働きかけでサ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB12月の追加利下げに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中