最新記事

安全保障

NATO支援に動くロシアのしたたかさ

アフガニスタンでの協力に積極姿勢を見せるメドベージェフの皮算用

2010年11月15日(月)15時38分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)、アンナ・ネムツォーワ(モスクワ)

 ソ連のアフガニスタン撤退から20年以上たった今、NATO(北大西洋条約機構)が再びロシアをこの国に呼び戻そうとしている。目的は、麻薬密輸組織との戦いや、治安部隊の再建で協力を得るためだ。

 対ロ関係の「新たなスタート」としてNATOのラスムセン事務総長が推進した協定では、ロシアはアフガニスタン治安部隊に物資や訓練を提供し、麻薬対策プログラムと国境警備を支援することになるが、戦闘部隊の派遣は行わない。

 11月中旬にリスボンで開かれるNATO首脳会議で、ロシアのメドベージェフ大統領が協定に署名する。これにより、NATO拡大とロシアの08年のグルジア侵攻で悪化した両者の関係修復が期待される。

 しかし、ロシアは大きな見返りも要求。旧ソ連圏へのNATOの派兵規模を3000人規模までに限定すること、東欧諸国に25機以上の軍用機を配備する場合は42日未満とすること、ロシアの同意なしに中欧とバルカン半島、バルト3国に大規模な追加派兵をしないこと──といった条件を突き付けている。

 メドベージェフの強気の理由は、NATOにとってロシアとの連携が不可欠であることを熟知しているからだ。ロシアがその気になれば、中央アジアでNATOの後方支援活動を妨害することもできるし、NATO内部の分裂を誘うこともできる。

 とはいえ、メドベージェフも限度を心得ていると、専門家は言う。NATOが01年にアフガニスタンに展開して以来、彼らはロシアの国境の南側を「守ってくれる」存在だからだ。アフガニスタンにおけるNATOの失敗は、すなわち国境地帯の不安定化を招く。だから「建設的な」関係を結びたがっていると、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのドミトリ・トレーニン所長は指摘する。

 どうせ旧ソ連圏からNATOを追い出すことは不可能だ。それならば、アフガニスタンで彼らに恩を売っておいたほうが得策だ、ということだろう。

[2010年11月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、鉄鋼関税50%に引き上げ表明 6月4日

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中