最新記事

日本政治

日本を殺すスキャンダル狂い

民主党代表選の結果がどうあれ、些細な醜聞に過剰反応する社会がまた政治空白を生むなら意味はない

2010年9月7日(火)16時52分
横田 孝(本誌記者)

一騎打ち 民主党代表選の立会演説会に臨む小沢一郎前幹事長(中央)と菅直人首相(右、9月4日) Kim Kyung Hoon-Reuters

 先進国の政界では、スキャンダルはよくあること。大抵の場合、渦中の政治家は政治生命や政権を失うことなく、生き延びられる。

 ビル・クリントン元米大統領は政治資金疑惑やセックススキャンダルを乗り越え、2期目を満了する頃の支持率は66%に達していた。フランスのニコラ・サルコジ大統領は就任早々に派手な離婚劇を繰り広げたものの、今も健在。イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相は、カネやセックス絡みの醜聞が次から次へと浮上するにもかかわらず、ほとんど無傷だ。

 だが、日本は違う。この国では、どんな些細なスキャンダルも癌のように肥大化し、政治家の政治生命を奪うまで進行し続ける。世界最悪水準の財政赤字と景気停滞をもたらした自民党政治に終止符を打つべく、鳩山由紀夫首相率いる民主党中心の政権が誕生したのはわずか8カ月前のこと。それから間もなく政治資金問題が持ち上がり、鳩山の支持率は右肩下がりを続け、今や首相就任当時から50,下がって24%にまで落ち込んだ。

 7月の参院選を前に、既に鳩山の後任を取り沙汰する声もある。官僚主導政治からの脱却を誓って政権交代を果たした鳩山と民主党が、さまざまな取り組みを始めたばかりにもかかわらず、だ。

 鳩山の凋落ぶりは、日本政治をめぐる古くからの疑問を提起している──世界第2位の経済大国に、なぜ冴えない政治指導者しかいないのか。

 これまでの一般的な答えは、自民党が長年にわたって政権を握っていたからというもの。自民党は世襲で議席を引き継いだり、派閥の力関係によって台頭した政治家を首相の座に就けてきた。

 だが、鳩山のケースはより根深い問題を示唆している。日本に政治指導力が欠落してきた最大の、そして最も見過ごされがちな理由は、この国の政治スキャンダルに対する病的なまでの執着だ。最新のトレンドやハイテク機器に熱狂するように、日本は最新のスキャンダルに飛び付く癖もあるらしい。

 政治家の命取りになった一連のスキャンダルの始まりは70年代にさかのぼる。当時、田中角栄首相が金脈問題で退陣し、その後ロッキード事件が発覚。今日まで日本政界を揺るがし続ける「政治とカネ」の問題の引き金でもあった。

 確かに、自民党が築いた政官業による「鉄の三角形」の弊害はある。こうした癒着関係は多くの先進国にも存在するが、それにまつわる些細なスキャンダルが致命傷になるのは日本ぐらいだ。

 強い指導力が期待された政治家が比較的軽い問題で失脚したケースは数多い。89年には、当時の竹下登首相がリクルート事件での収賄疑惑によって退陣(が、起訴されることはなかった)。ヨーロッパ型の福祉国家をつくる構想を示した竹下がもっと長く首相の座にあれば、高齢化社会に備えた国づくりに貢献できたかもしれない。

 ソ連が崩壊した90年代初め、アメリカがポスト冷戦の世界秩序の構築に力を注いでいた一方で、日本は自民党の大物政治家、金丸信の闇献金疑惑と脱税問題の追及に明け暮れていた。金丸は失脚し、2大政党制の実現という彼の構想もついえた。

 「当時、アメリカでは旧ソ連の核管理など冷戦後の世界について論議していたが、日本は政治とカネ一色に染まっていた」と、政治ジャーナリストの田中良紹は言う。おかげで、日本はポスト冷戦世界の秩序に適応するのが遅れただけでなく、弱体化した自民党の不安定状態によって、経済的にも「失われた10年」を招いてしまった。

 そして長期政権を築いた小泉純一郎が06年に首相を退任して以来、スキャンダル絡みの辞任劇は加速度的に増えている。何しろ、たった4年の間に3人もの総理が生まれては消え去った。 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米提案の停戦計画は「過度」 ホルムズ海峡の

ビジネス

メタ、複数部門で数百人を削減へ リアリティ・ラボな

ワールド

イラン、米停戦案に「前向きでない」 パキスタン経由

ワールド

米国防総省、軍需品増産で防衛3社と枠組み合意 ロッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 4
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 5
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 6
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 7
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 8
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 9
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 10
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中