最新記事

イスラム過激派

サッカー好きで広がるテロ組織の輪

2010年7月14日(水)15時40分
デービッド・グレアム

 南アフリカで開かれたサッカーのワールドカップ(W杯)の観衆に、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンがいたら、さぞ目立っただろう。イスラム教ではギャンブルや飲酒をはじめさまざまな娯楽が禁じられているし、彼がスタジアムに姿を現せば試合観戦ではなく会場爆破のためと思いたくなる。

 ところが実はビンラディンは大のサッカー好き。これはイスラム過激派の間では珍しくないことだ。ハマスの指導者イスマイル・ハニヤはパレスチナ自治区ガザのプロ選手だったし、ヒズボラのテレビ局はレバノン・プレミアリーグのチームスポンサーになっている。「彼らはジハード(聖戦)の次にサッカーが好きだ」と、サッカーとテロの関係を研究している人類学者スコット・アトランは言う。

 イスラム過激派のサッカー愛に負の側面があるとすれば、テロ組織の新人探しや仲間づくりの手段としてサッカーを使っていること。79年にソ連がアフガニスタンに侵攻して以来、抵抗武装勢力の絆を強めたりテロ組織の基盤を強化する上でサッカーは役立ってきた。

列車爆破テロ犯もサッカー仲間

 アルカイダは90年代にスーダンでサッカーリーグを運営していたし、04年にスペインで列車爆破テロを起こした実行犯の大半が一緒にサッカーをしていた。「驚くほど多くのサッカー選手がテロ組織に一緒に加入する」と、アトランは米上院軍事委員会で証言している。パレスチナのあるサッカーチームからは、最低でも10人の自爆テロ実行犯が出ている。

 だが、すべてのイスラム教徒がサッカーを愛しているわけではない。教徒を祈りから遠ざけ、一体であるはずのイスラム社会を国境の壁で分断すると、反発するイスラム法学者もいる。今年のW杯にイスラム圏から出場できたのはナイジェリアとアルジェリアだけ。結局は両国とも予選で敗退した。

[2010年7月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中