最新記事

アフガニスタン

「無能」カルザイを叩くオバマ政権の愚

アメリカがアフガニスタンで唯一頼りにできる人物、カルザイ大統領を公然と非難するのはやめよ

2010年4月12日(月)18時43分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

最善のパートナー アフガニスタン駐留米軍のスタンリー・マクリスタル司令官(左)と言葉を交わすカルザイ Omar Sobhani-Reuters

 バラク・オバマ米大統領は、アフガニスタンの戦争で勝利を収めるつもりだと言い続けている。1月の一般教書演説では、「厳しい日々も待っているだろうが、絶対に成功すると確信している」と言い切った。

 しかしオバマ政権は、むしろ成功の確率を低くする行動を取ってきた。アフガニスタンで唯一頼りにできるパートナーに批判を浴びせ、その人物の力を弱め続けている。ハミド・カルザイ大統領のことだ。

 端的に言うと、カルザイが無能で腐敗しているという批判がすべて正しいとしても、アメリカはカルザイを支援すべき理由のほうがはるかに大きい。カルザイに代わりうる人物がいないからだ。

 外国で反政府武装勢力と戦おうと思えば、ある程度は国民の支持を得ている地元指導者と手を組むことが欠かせない。アフガニスタンの場合は、最大民族のパシュトゥン人の実力者で、しかもアメリカと共通の理念を打ち出す意思のある人物が求められる。

 この条件を最も満たせるアフガニスタンの政治家は、(欠点は数あれど)カルザイをおいてほかにいない。それになんと言っても、カルザイは選挙で選ばれた大統領だ。09年の大統領選挙に重大な不正があったのは事実だが、紆余曲折の末に、選挙結果は国連などの国際機関の承認を得ている。

カルザイ訪米は実現するのか

 アメリカがカルザイを追い落とすとすれば、軍部にクーデターを起こさせるしかないが、そんなことをすれば政情不安を招く上に、アメリカの道義性が疑われる。この選択肢は論外だ。

 つまり、アメリカはカルザイと一緒にやっていく以外に選択肢がない。それなのに、オバマ政権の高官たちは公の場で一貫してカルザイを非難し続けている。

 ジョー・バイデン副大統領が上院議員時代に取った態度は、その典型だ。2年前にアフガニスタンを訪問した際、バイデンは夕食会でのカルザイの発言に納得せず、嫌味たっぷりに途中で席を立ったことがある。

 報道によれば、オバマ政権は3月にカルザイをホワイトハウスに招待していたが、その招待を一旦撤回。その後、改めて招待し、5月12日にカルザイがホワイトハウスを訪れることになった。しかし、招待取り消しの可能性はまだあるらしい。カルザイのホワイトハウス訪問に「建設的」な成果が期待できるか、カルザイの言動を引き続き見守ると、ロバート・ギブズ大統領報道官は述べている。

 アフガニスタンは世界で最も貧しい5つの国の1つだ。30年にわたる戦乱で激しく痛め付けられていて、識字率は世界最低の水準にとどまっている。そういう国の舵を取るのは、誰にとっても並大抵のことでない。その点、最近のカルザイは、公務員改革や警察改革、地方行政、さらには懸案の汚職問題に至るまで、適切な政策を次々と導入している。

オバマ政権に必要な「大人の外交」

 ここで参考になるのがイラクのヌーリ・マリキ首相に対するアメリカの姿勢だ。06年にイラクの首相に就任したマリキは、表向きアメリカとのパートナー関係を強調する一方で、反米テロを続けるイスラム教シーア派の武装勢力と親密な関係にあった。しかも、イラク政府の汚職の規模は数十億ドル。アフガニスタンの数千万ドルとは比較にならない規模だった。

 それでもアメリカ政府は、マリキを公然と非難することを避けた。マリキと対立することは、アメリカの目的を達する上で得策でないと理解していた。

 アメリカは、カルザイに対してもそういう姿勢を取るべきだ。カルザイもマリキと同様、歴史を通じてアメリカがやむなく手を組んできた数々の外国指導者と比べれば、ましな部類に属する。

 アメリカが「内々に」カルザイに圧力を掛けることまで否定するわけではない。しかし、「内々に」という点を忘れてはいけない。一般人は思ったことを率直に口にしてもいいかもしれないが、政府の人間がそれをすれば、単なる自己満足に過ぎない。怒りや不満をぶちまけるのは、外交ではない。

 いまアフガニスタンに必要なのは、国を治める政府の機能を強化すること。アメリカがカルザイの力を弱めれば、アフガニスタンの政府機能を強化する足を引っ張るだけだ。

 オバマ政権はもっと大人になって、カルザイ以上のパートナーがいないという現実を受け入れたほうがいい。5月12日には、予定どおりカルザイをホワイトハウスに歓迎するべきだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 8
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中