最新記事

ネット

サイバー犯罪の帝国は死なず

グルジアやエストニアへのサイバー攻撃の後ろ盾と疑われたロシア系組織RBN。司法当局によって消滅させられたかに見えたが、アメリカや中国でロシア人が似た組織を運営している

2010年2月15日(月)12時58分
ユリア・タラトゥタ、イゴール・イワノフ(ロシア版特約)

 インターネットは政治的圧力をかけるために格好の手段のようだ。エストニアでは07年、隣国ロシアとの関係悪化後に政府系ネットサーバーがサイバー攻撃にさらされた。

 08年に南オセチア自治州をめぐってロシアとグルジアの間に武力衝突が起きると、グルジアの首都トビリシにサイバー攻撃を仕掛けるソフトウエアがロシアのサイトで自由に入手できるようになった。ロシアとEU(欧州連合)の新たな協力協定の交渉再開に反対したリトアニアも被害に遭った。

 こうした事態を重く受け止めたNATO(北大西洋条約機構)は、09年に特別報告書をまとめた。「グルジアに対するサイバー攻撃をロシア政府が直接、あるいは間接的に関与していたという決定的な証拠はないが、攻撃を止めようとした証拠もない」と、報告書は指摘している。

 元KGBのニコライ・コバリョフ下院議員に言わせれば、こうした見解はまるで冷戦時代のプロパガンダだ。「NATOは報告書でロシアによるサイバー攻撃の脅威や、国際的なサイバー攻撃へのロシアの関与を示唆しているが、まったく根拠を示していない」

 それでもNATOは、一連のサイバー攻撃の背後にロシアン・ビジネス・ネットワーク(RBN)の影がちらついているという見方を撤回する気はなさそうだ。

 RBNは謎に包まれた「サイバーマフィア」で、ハッキング用ツールや米政府のコンピューターシステムにアクセスするためのソフトを販売していたという。NATOの調査当局によれば、RBNとつながりがあったハッカーたちは欧米の金融機関のネットワークへの侵入や詐欺、迷惑メールで金を儲けることを狙っていた。

 捜査当局者は、フライマンと名乗る人物が始めたとされるRBNをサイバー犯罪者の「後ろ盾」と見なしてきた。

 ネットセキュリティー大手マカフィーのフランソワ・パジェによれば、RBNは顧客の情報を絶対に明かさないレンタルサーバー・サービスを1カ月600ドルで提供する事業も手掛けていた。コンピューター・セキュリティー会社カスペルスキー・ラブスのアレクサンドル・ゴスチェフは、RBNのサーバーはパナマに置かれているとみている。

「顧客の情報を入手するには裁判所の許可が必要だ」と情報筋は言う。「しかし(RBNの顧客が)犯罪に関わっている疑いが生じた場合、どこの裁判所に申し立てればいいのか? パナマの裁判所になるのか?」

薬のネット販売にご用心

 パジェによれば、RBNはかつて最も活発なサイバー犯罪組織として名をはせた。自ら犯罪に手を染めていたのか、サイバー犯罪の拠点を提供していただけなのかは不明だ。RBNとつながりのあったドメイン名(ネット上の「住所」)は07年末時点で2090あったとの調査結果もある。同年、RBNは米ロ両国の司法当局に目を付けられて消滅したかに思われた。

 しかし安心するのは早かったようだ。RBNは消えたものの、国外在住のロシア人が中国やトルコ、ウクライナ、アメリカで同様な組織を運営している。「今やRBNとよく似た組織が世界中に約10ある」とカスペルスキーのゴスチェフは言う。

 エストニアへのサイバー攻撃の背後で糸を引いていたのはRBNだったとマカフィーのパジェはみている。アメリカでのある調査結果によると、グルジアに対するサイバー攻撃はRBNの「後継」組織が関与していたという。

 こうした組織の資金源は迷惑メールや児童ポルノ、オンライン・カジノ、金融機関のパスワードやカード番号を盗むフィッシング詐欺などだと考えられている。資金源として特に問題視されているのが医薬品のネット販売だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中