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アフガニスタン

誤爆問題で「戦争嫌い」のドイツ軍に転機

NATO軍でもお荷物扱いの戦わない軍隊はついに武器を取るのか、それとも撤退か

2009年9月17日(木)15時04分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

これは「安定化軍」 戦争という言葉は禁句のまま(アフガニスタン北部の基地で、8月) Ruben Sprich-Reuters

 ドイツ軍にとって生死を懸けた戦闘は約60年ぶりだ。混迷を深めるアフガニスタンにドイツ軍部隊4200人が派遣されている。だが総選挙を9月27日に控え、メルケル首相をはじめとする政治家は「戦争」とは言わず、「安定化軍」などと遠回しに表現してきた。

 そんな建前を打ち砕く出来事が起きた。4日、アフガニスタン北部クンドゥズ州で、駐留ドイツ軍司令官が米軍に要請した空爆で、タリバンや民間人に多くの死者が出たのだ。ドイツ軍絡みでは第二次大戦以来最悪の惨事になった。

 慌てたドイツは、軍を再び戦闘部隊として使うことを大っぴらに議論し始めた。遅過ぎるくらいだ。90年のドイツ再統一の際には、同国は徐々に経済規模(当時は世界第3位)に見合う役割を果たすようになるとみられていた。

 ドイツ軍は紛争地域に医師や平和維持軍を派遣したが、「戦争」は禁句のままだった。アフガニスタンでは、国際的な義務を果たすと同時に国内の平和運動家もなだめようとした。部隊が戦闘に巻き込まれないよう、規則でがんじがらめにした(最近まで、武器が使用できるのは差し迫った危険から自分の身を守る場合のみだった)。

ドイツ軍の軍服を恐れるドイツ人

 しかし、そうした姿勢が諸外国から嫌われた。「NATO軍は機能していない、その大きな原因はドイツだ、という空気が広がっている」と、ロンドンのシンクタンク欧州改革研究所のチャールズ・グラント所長は言う。

 ドイツのアフガニスタン政策には誰も満足していない。軍は足かせをされたまま、ますます危険な状況に陥っている。戦争をめぐる国内の議論はごまかしだらけで、有権者には自国が外国で戦っている理由がまるで分からない。

 総選挙直前にそれが一気に表面化した。問題はドイツの指導者たちがどう対応するかだ。「戦争」を禁句のままにするのか。それとも、つらい選択をしてドイツを「普通の国」に戻すのか。第二次大戦が終わって64年、ドイツ軍の軍服をいまだに恐れているのはドイツ人だけだ。

[2009年9月23日号掲載]

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