最新記事

外交

国連総会の仰天スピーチトップ10

ブッシュを「悪魔」呼ばわりしたチャベスなんて甘い!?まだまだある、国連のトンデモ演説

2009年9月25日(金)18時43分
ジョシュア・キーティング

オンステージ 今年のチャベス大統領は「希望の香りがする」と発言(9月24日) Lucas Jackson-Reuters

 国連総会とは、その時々の重要課題を議論するために世界のリーダーが終結する場。そこで繰り広げられた演説には、歴史がたっぷり詰まっている。情熱的だったり挑発的だったり、聞くに堪えないものまで、過去60年間の歴史に残る演説トップ10を紹介しよう(肩書きは当時)。

第1位 議事妨害で危うく死にかけたインドのクリシュナ・メノン国連大使(1957年)


安全保障理事会はこれを論争だとみなしている。だがこれは領土争いではない。問題はただ1つ。それは侵攻という問題だ。


 カシミール地方の帰属に関する議論中、メノンは歴史に残る議事妨害を行なった。国連安保理史上最も長いこの演説は、合計8時間も続いた。疲労で倒れたメノンは途中で病院に運ばれたが、病院から戻った後も医師の付き添いの下で、さらに1時間話し続けた。

第2位 キューバのフィデル・カストロ国家評議会議長の国連デビュー(1960年)


ケネディが億万長者ではなく、字が読めて無知でもなかったら、農民相手の反乱は不可能だと分かっただろう。


 メノンの比ではないが、カストロのデビュー演説は国連総会では最長の4時間半に及んだ。この前年に初めて訪米した際には敵対姿勢ではなかったのに、すっかりソ連陣営に。演説ではアメリカによる帝国主義を批判し、大統領選を争っていたジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンをこけにした。カストロはこの年の国連総会で最悪な歴史をもう1つ作っている。ホテルの部屋に生きたニワトリを持ち込んだのだ。

第3位 ブチ切れたソ連のニキータ・フルシチョフ首相(1960年)


議長、アメリカの帝国主義を黙らせてください。


 この日、フルシチョフは冷戦の歴史に最高に皮肉な瞬間を刻んだ。ソ連の帝国主義を激しく非難するフィリピン代表を黙らせようと、靴を脱いで机にたたきつけたのだ。この仕草はその後、会議が紛糾したことを表す古典的なジェスチャーとなった。もっとも、西側諸国の大使に「あんたらを葬ってやる」と暴言を吐いたこともあるフルシチョフ。ぶっとび発言に驚くことはないのかも。

第4位 盗聴器を取り出したヘンリー・カボット・ロッジ米国連大使(1960年)


私は今日、偶然にもソ連のスパイ活動の具体例を持ってきている。皆さんにもよく分かるように。


 コリン・パウエル米国務長官がイラク攻撃への支持を得ようと、演説で炭疽菌の小瓶を示したのは有名な話。小道具が有効に使われた例は他にもある。アメリカのU2型偵察機がソ連領空を侵犯した事件で、ロッジは攻めに出ることにした。ソ米友好協会が在モスクワ米大使館にプレゼントした木製の印鑑を取り出し、ピンセットを使って小さなマイクを取り出したのだ。結局、アメリカの偵察機に対するソ連の非難決議は廃案に。

第5位 PLO(パレスチナ解放機構)のヤセル・アラファト議長は戦闘モード(1974年)


私たちの目の前で古い世界秩序が崩れ去るなか、帝国主義、植民地主義、新植民地主義、人種差別主義の集合体であるシオニズム(ユダヤ人国家建設)運動の消滅は避けられない。


 長年イスラエルに批判的だった非同盟諸国の要請で、初めて国連総会に招かれたアラファト。軍服を着て壇上に立ち、シオニズムを辛辣に非難した。その1年後に有名な「シオニズムは人種差別主義」決議が採択され、イスラエルと国連の関係は最悪の状態となった。

第6位 ランボーを引き合いに出したニカラグアのダニエル・オルテガ大統領(1987年)


軍事侵攻などのオプションを並べるせっかちな連中に相談する前に、覚えておくことだ。レーガン大統領、ランボーは映画の中にしかいない。


 オルテガは国連の場を利用してアメリカの対中米政策を非難した。特に、「ニカラグア人の骨の髄までしゃぶった」反政府武装勢力コントラとソモサ独裁政権をアメリカが支援したことに反発。この怒りのスピーチに、米代表団は途中退席。「ニカラグア国民は着席してオルテガに耳を傾けなければいけないかもしれないが、私は違う」と、バーノン・ウォルターズ米国連大使は語っている。

第7位 ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は鼻が利く?(2006年)


昨日ここに悪魔がやって来た。今でも硫黄(火薬)の臭いが残っている。


 芝居じみたチャベスは、国連総会のスポットライトが大好きだ。それが最もよく現れたのがこの演説。ジョージ・W・ブッシュ米大統領をこれみよがしに悪魔と呼んだ。そして、いつものように著名な左派の著作を宣伝。この時はアメリカの言語学者ノーム・チョムスキーの本を推薦した。チャベスは今年の演説で、バラク・オバマが大統領になった今「悪魔の臭いはもうしない」と述べた。

第8位 スーダンのオマル・ハッサン・アフメド・アル・バシル大統領はダルフールの虐殺を否定(2006年)


ボランティア団体が活動資金を集めるために伝える状況が、負の結果をもたらしてきた。


 ジョージ・W・ブッシュ米大統領はダルフールで起きている殺戮を「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだが、バシルは欧米の援助団体が活動資金を集めるためにでっち上げた陰謀だと主張。総会の外では発言がさらにエスカレート。イスラエルとシオニストが、スーダン政府の弱体化を狙って「嘘」を広めていると非難した。イランのマフムード・アハマディネジャド大統領も同様の主張を展開した。

第9位 イランのマフムード・アハマディネジャド大統領はシオニズムが大嫌い(2008年)


欧米の威厳と品位は、少数だが詐欺的な人々によって弄ばれてきた。シオニストと呼ばれる彼らは極めて少数派だが、ヨーロッパとアメリカの経済及び政治の中心地の根幹を支配してきた。詐欺的で、複雑で、コソコソしたやり方で。


 アハマディネジャドは国連を欧米の権力、特に天敵であるイスラエルを批判する場として常に利用してきた。この年の演説ではシオニストたちが南オセチア紛争を引き起こすなど数々の犯罪を冒していると批判。もう1つ目立ったのは宗教的な言葉を多用し、シーア派の教えに触れたことだ。

第10位 リビアの最高指導者ムアマル・カダフィ大佐の暴走(2009年)


安全保障理事会などと呼ぶべきではない。テロ理事会と呼ぶべきだ。


 政権に就いて40年。カダフィは今年初めて国連総会で演説し、失われた時間を確実に取り返した。100分に及ぶ演説で、カダフィは半世紀分の不満と陰謀論を展開。アメリカが新型インフルエンザを「開発した」と主張し、ケネディ暗殺とイスラエルの関係をほのめかした。カダフィの怒りのほとんどは国連安保理に向けられ、安保理と国際テロ組織アルカイダを結び付けた。

カダフィの宿泊先も話題に。ニューヨーク近郊に遊牧民の大型テントを設置したが、当局に撤去を指示され、結局大富豪ドナルド・トランプ邸の裏庭に落ち着いた。


Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 09/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベトナムに中国技術からのデカップリング要求=関

ビジネス

再送日産、ルノー株5%売却資金は商品開発投資に充当

ワールド

バングラ総選挙、来年2月に前倒しの可能性 ユヌス首

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中