最新記事

韓国

朝鮮半島のミスター太陽、金大中

2009年8月18日(火)16時23分
ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)、李炳宗(ソウル)

 だがその後、韓国の国民は和解がもたらした感情的な問題に直面した。8月に平壌とソウルで離散家族が再会したことで、忘れかけていた深い悲しみがよみがえったのだ。

 韓国のナム・ボウォン(63)は、71歳の姉に会うために平壌へ向かった。北朝鮮政府はナンを8日間も待たせたあげく、帰国の数時間前になってようやく姉に引き合わせた。「たった30分しか会えなかった」と、ナムは嘆く。

 国営農場での重労働に耐えてきた姉は背中が曲がり、歯はほとんど抜け、栄養失調でやせ細っていた。彼女は弟に、北朝鮮では貴重なコメを一袋贈った。ナムは姉への手土産として、毛皮のコートや肌着、靴下などを渡した。「姉の悲惨な姿など見なければよかった」と、ナムは言う。

 南北間では直通の電話や郵便がないため、再会を果たした家族は連絡を取り合う方法がない。北朝鮮側は、物理的な制約から離散家族の再会をこれ以上拡大するのはむずかしいとしているが、南の繁栄ぶりを国民に知らせたくないからだとの見方も多い。

 南北首脳会談では金正日が韓国を訪問することでも合意に達したが、金泳三(キム・ヨンサム)前大統領など金大中の政敵はこれに反対している。「金正日は統一のパートナーではなく最大の障害だ」と、金泳三は言う。

国内問題にも目を向けよ

 批判派は、金大中は北朝鮮との接触を広げることにいちずになりすぎて、国内にある経済危機の兆しを無視しているとも主張している。実際、韓国株式市場の平均株価は年初来の最安値に近い水準だ。米フォードによる大宇自動車の買収交渉が決裂したことも、人々の不安をかき立てた。

 韓国最大の財閥、現代グループも深刻な財政難に陥っていると、専門家は警告する。それでも金剛山観光や開城の工業団地建設など、赤字を垂れ流している北朝鮮関連の事業から現代が手を引く気配はない。「景気低迷の兆しが強まれば、太陽政策にも大きく影響しかねない」と、マンスフィールド太平洋問題研究センター(ワシントン)のゴードン・フレークは言う。

 金大中は自らの和平プランのために闘い続けるだろう。だが、そろそろ国内問題にも目を向ける必要がある。そのことは金も承知しているはずだ。

 ノーベル平和賞決定の発表があった後、彼が最初に行った公務は、全国数百カ所の病院の機能を停止させた医師のストライキについて保健福祉相と話し合うことだった。

 金は先週、統一は「実現に20~30年かかる」と国民に訴えたばかりだ。そうだとしても、金の功績が忘れられることはない。苦難に直面しても夢を忘れなかった頑固な楽観主義者として。

[2000年10月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、保有ETFの売却開始を決定 金利据え置きには

ワールド

米国、インドへの関税緩和の可能性=印主席経済顧問

ワールド

自公立党首が会談、給付付き税額控除の協議体構築で合

ビジネス

多国発行ステーブルコインの規則明確化するべき=イタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中