最新記事

アジア

「天安門事件を謝罪するはずがない」

流血の「6・4事件」で10代の息子を失ってから20年。抗議の声を上げ続けてきた遺族団体の創設者が語る、中国政府への憤りとオバマ米大統領への期待

2009年6月4日(木)17時25分

決死の抵抗 89年6月、天安門広場近くで戦車の前に立ちはだかる若者 Reuters

 5月17日。北京のとある個人宅に50人ほどの年老いた親たちが集まった。20年前の天安門事件で命を絶たれた子供たちを追悼するためだ。

 だがここに、遺族団体「天安門の母たち」の創設者で追悼文を読むはずだった丁子霖(ティン・ツーリン)(73)の姿はなかった。知人らによれば、事件の起きた6月4日を過ぎるまで、当局から行動を厳しく制限されているのだという。最近では電話もつながらない状態だ。

 4月下旬、メリンダ・リウ本誌北京支局長が丁の自宅でインタビューした。

        *

――天安門事件で政府が弾圧を行なった根本原因は何だと思うか。

 私が(事件で殺された)息子の遺体を引き取ったとき、息子はまだ10代だった。なぜあの子は殺されたのか? 私の認識では、あの事件は政治システムがもたらした悲劇だ。中国社会を救うのに、指導部などあてにはできない。共産党に言わせれば、一般の中国人の命など1本の草の命と変わらないのだから。

――ヒラリー・クリントン米国務長官は2月の訪中の際、人権問題が米中間の協議の妨げになってはならないと述べた。

 あの発言にはとてもがっかりした。だが個人的には私はヒラリーに感謝の念を抱いている。95年の北京女性会議に出席した際、彼女は(拘束中だった)私の釈放に力を貸してくれたからだ。

 ビル・クリントン元大統領は(98年の訪中の際に)天安門広場に面した場所で歓迎式典に臨んだが、ヒラリーはそれに反対していたという話だ。あの時私は本当に大統領の行為に腹が立った。

 天安門広場は89年に学生たちが殺された場所だ。その血はまだ乾いていないし、傷も癒されないままあそこに残っている。そんな場所で赤いじゅうたんの上に立ち、中国軍の歓迎を受けるなんて、天安門(で死んだ若者)の母たちの心を踏みにじる行為だと思った。

――バラク・オバマ米大統領は年内に訪中する予定だ。彼に言いたいことは?

 劉暁波(リウ・シアオポー、民主化を求める声明『08憲章』に関与したとして08年末に逮捕された活動家)を救い出してほしい。中国国内にいる(共産党政権の)被害者はみんな、オバマの動向に注目し、期待をかけている。彼は就任演説で「変化」を約束した。われわれはその実現を待っている。

――天安門事件20周年以外にも、今年、中国は政治的に問題となりそうな節目をいくつも迎える。

 09年は共産党にとってはやっかいな年だ。(チベット動乱と)ダライ・ラマの亡命から数えて50年目でもある。共産党は人々を殺りくすることで権力を強奪したから、国内には緊張が残っている。

 88年に鄧小平はこう言った。2万人を殺せば中国は20年間、平和と安定を維持できると。天安門事件の当時は国中の人々が殺戮に激怒したが、時の経過とともに悲劇を忘れてしまう人もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権が停止の風力発電事業5件全て再開へ、地裁が最

ビジネス

英中銀、消費者決済巡り意見募集へ クレカ代替手段模

ワールド

UAE大統領が訪日延期、現地情勢の推移踏まえ=官房

ビジネス

日銀、1月31日までに保有ETFの売却を開始 53
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 10
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中