最新記事

共産党

第6世代が中国を変える

改革開放時代に育った40代のエリートが、将来の指導者として台頭している

2009年4月7日(火)16時21分
メリンダ・リウ(北京支局長)、ジョナサン・アンズフィールド(北京)

 今や中国共産党の出世コースとされる共産主義青年団。その第一書記に胡春華(ホアン・チュンホア、44歳)が就任したのは昨年末のこと。以来、人が変わったとの評判だ。事情通の学者が匿名を条件に語ったところでは、「当初は腰の低い人物とされていたが、意外とタフだ」とか。

 たとえば、共青団の管轄下にある青年政治学院のナンバー2のポストから、60歳の陸士チェン(ルー・シーチュン)をあっさり解雇した。定年には達していたが、本人は現役続行を希望していた。年長者の意向を尊重するのが中国の伝統なのに、胡は事前の根回しもせずにいきなり切り捨てた。「オールド陸の時代は終わったんだ」と会議で言い放つ胡に、その場にいた人たちはショックを受けたという。

 そんな胡を含めた若手のエリートたちも、このところはピリピリしている。10月15日、北京の人民大会堂に全国から約2000人の代表が集まり、中国共産党大会が始まるからだ。この大会で指導部の人事が決まる。自分の地位がどうなるかは政治の風向き次第で、自分ではどうにもできない。

 党総書記で国家主席の胡錦濤(フー・チンタオ、青年団の胡と縁戚関係はない)と首相の温家宝(ウエン・チアパオ)は2期目の任期が終わる12年までの続投が決まっている。今回の党大会で注目されるのは、その後の指導者となるべき人物をどう処遇するかだ。

 注目が集まるのはポスト胡錦濤の有望株だけではない。その次の世代、つまり今40代で、順当に行けば2022年に実権を握る世代の若手エリートのなかで誰がトップに躍り出るかだ。

謙虚さ欠く甘えん坊?

 胡春華や彼と同世代の周強(チョウ・チアン、47歳)、孫政才(スン・チョンツァイ、44歳)らの名は、国内でもまだほとんど知られていない。だが、遠からずなじみの顔になるはずだ。この世代のエリートたちには熱い期待が寄せられている。彼らがトップに立てば、中国の政治も変わるかもしれない。

 中国では、この世代は毛沢東の第1世代から数えて6番目の「第6世代」と呼ばれている。64歳の胡錦濤は第4世代の指導者で、その後継者と目されている李克強(リー・コーチアン、52歳)は第5世代のトップランナーだ。

 だが、なんといっても国民の期待を一身に集めるのは60年代生まれの第6世代。「60年代世代」とも呼ばれるこの世代は、過去のどの世代よりも現実的で世知にたけ、海外経験も多く、教条主義的でないといわれる。しかも(中国の国営メディアは決して認めないが)、第6世代のなかには89年に天安門で民主化を叫んだ学生たちも含まれているはずだ。

 この世代が実権を握れば中国は変わると、中国人民大学の毛寿竜(マオ・ショウロン)教授は言う。「彼らの考え方はリベラルで、発想が自由だ。彼らの時代は変革の時代になるだろう」

 育ってきた時代を反映して、第6世代はイデオロギーにとらわれず、ビジネスにも通じている。この世代にはひと山当てた起業家もいれば、環境保護活動家もいる。だがナショナリズムに傾きがちなきらいがあり、ときには傲慢ですらあると評するアナリストもいる。「彼らには(先輩世代のような)謙虚さがない。ひどく甘やかされている向きもある」と、米ブルッキングズ研究所の中国専門家リー・チョンは手厳しい。

 確かに、先輩たちと比べたら恵まれた世代にちがいない。かつて、文化大革命の嵐が吹き荒れた66〜76年には全国の大学が閉鎖され、学生たちは農村に「下放」されたものだ。しかし第6世代が育ったのは、第2世代の指導者・トウ小平が市場経済の導入を進めた「改革開放」の時代だ。

 第6世代が受けた教育は、間口の広さでも、先輩世代に勝っている。現在の最高指導部である中央政治局常務委員9人は、すべて工学系だ。対して「60年世代のエリートは理工系に限らず、法律、経済など幅広い知識を身につけており、よりグローバルな発想ができる」と、国家行政学院の汪玉凱(ワン・ユィカイ)教授は言う。

 人々の暮らしが豊かになったときに、韓国と台湾で独裁政権が倒れたのを、第6世代は目のあたりにしてきた。彼らはその教訓に学び、危機に際して「政治プロセスにより多くの人々を参加させる道を選ぶのではないか」と、米デューク大学の政治学者シー・ティエンチエンはみる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中