アポロ計画50年 「月に挑んだ男たち」が語る人類最大の冒険

THE GREATEST ADVENTURE

2019年7月18日(木)19時02分
ニーナ・バーリー(ジャーナリスト)

moon190718-pic06.jpg

SPACE X

イーロン・マスクと民間主導の宇宙探査への期待

ラッセル・シュウェイカート 今では宇宙探査の真の活力源は、民間主導による宇宙技術への参入だ。

NASAは宇宙探査に大きな責任があり、今後も宇宙計画と共に宇宙探査も継続していくはずだ。しかし、政府の宇宙計画は時間とともに硬直化し、リスクを回避する傾向がある。それとは対照的に、新規参入してくる企業は非常に革新的だ。互いに競い合い、ありとあらゆる素晴らしいアイデアを持っている。

それを体現するのがイーロン・マスクと、彼が設立したスペースXだ。同社が開発した2段式ロケットは第1段の着陸に成功し、再利用もされている。世界最強の大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の第1段のサイドブースター2基の同時帰還・着陸も成功している。信じられない快挙だ。NASAや政府ではこうはいかなかっただろう。民間の宇宙探査は非常にエキサイティングだ。新規の宇宙開発が民間の独擅場となる日も遠くないだろう。

マスクの言葉に嘘はない。彼は人類が複数の惑星に住み、宇宙空間を行き来するようになると、本気で考えていて、それを私たちの前で言葉にする。マスク自身のアイデアではないが、勇敢にもはっきりと言葉にし、彼自身もそう信じている。彼も、私も、大勢の人々もこのテーマに関心がある──無意識にであっても、だ。

宇宙計画の資金とその未来はどこへ?

チャーリー・デューク 宇宙飛行士たちとアポロ計画が成し遂げたことに、アメリカ人は今でも敬意を抱いている。ただし、政治風土は確かに変わったと思う。

「なぜそんな大金を月に使うのか」と質問されて、私は次のように答えた。「月には一切使っていない。全部アメリカのために使った」

アポロ計画には最盛期で40万人が雇用されていた。大勢の人間がこの宇宙計画で開発された技術の恩恵を受けた。言ってみれば、多くの研究が示してきたように、これまでのアメリカの宇宙計画と宇宙開発競争に対する投資の利益率は非常に大きい。

マイケル・コリンズ アメリカ社会では、宇宙計画はどちらかといえばマイナーな要素だ。当時いかに重要だったか、現在いかに重要か、誇張したくはない。宇宙計画は重要だと心から信じてはいるが、図に乗って「世界平和や人種差別や女性の地位や、その他あらゆる問題を解決する」などと言うつもりはない。当時は偉業だった。それだけだ。誇張するつもりはない。

ラッセル・シュウェイカート アメリカの指導者たちは、国内政治や政争や激しい議論に明け暮れていても、(宇宙探査については)より深く理解していると思いたい。議会であれ政権であれ、願わくばその両方が、宇宙探査はもっと深いレベルの責務だと理解していてほしいと思う。

ある意味、それは私たちが未来の数多くの世代に対して負っている責務だ。それは生命が進化している未来であり、そうした深い認識から、NASAの年間予算や国際協力、独創的な深宇宙探査の拡大、もしくはそれらの探査への支援に対するコミットメントが生まれることを願っている。

今では毎日のように、新聞やツイッターなど至る所で、でたらめやたわ言や口論などを目にする。それでも私はやはり、根底には未来に対する自分たちの責任について深い理解があると思いたい。

<本誌2019年7月23日号掲載>

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ビジネス

午後3時のドルは147円前半へ上昇、米FOMC後の

ビジネス

パナソニック、アノードフリー技術で高容量EV電池の

ワールド

米農務長官、関税収入による農家支援を示唆=FT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中