アポロ計画50年 「月に挑んだ男たち」が語る人類最大の冒険

THE GREATEST ADVENTURE

2019年7月18日(木)19時02分
ニーナ・バーリー(ジャーナリスト)

チャーリー・デューク (私が乗り込んだアポロ16号が月面探査を行った)72年当時、明らかに(ベトナム)戦争がアメリカを引き裂いていたが、宇宙計画が人々の心を一つに結び付けた。

私は計画に参加した大勢の人々と共にアポロ(11号の月面着陸の映像)を見た。みんなとても興奮していた。(ソ連と)競争していたからだ。当時はまだ冷戦の最中で、アメリカはベトナムで「熱い戦争」(武力行使による戦争)もしていたが、冷戦ではアメリカが勝利しつつあると確信できた。

当時、全米各地を回って講演をすると、国が一つにまとまっていることを肌で感じたものだ。子供も大人も誰もが興奮していた。アメリカは人類史上前例のない偉業を成し遂げる──誰もがそんな思いを抱いていた。

今のアメリカは、ある面では当時より前向きではないが、別の面では当時より前向きだろう。今でも、宇宙に行くという目標は、わが国にとってとても建設的なものになり得る。

とはいえ、あまり感心できない動きも多くある。今のアメリカは常軌を失っているようだ。

マイケル・コリンズ 宇宙計画はもちろん重要だが、アメリカ社会を大きく変えたとか、アメリカ社会にとって大きな挑戦だったとは思わない。

(アポロの月面着陸は)社会全体にとってはそれほど重大な出来事ではなかった。(宇宙計画があろうと、なかろうと)国の歴史は続いていく。アメリカは当時も今も、そして将来も、世界最高の国だ。善きにつけ、悪しきにつけ、何らかの形で、宇宙計画が(インパクトを)与えることはなかった。

当時のアメリカがひどい状態だったとは思わないし、アポロ計画でそれが素晴らしく変わったとも思わない。歴史の中では宇宙計画はさほど大きな重要性を持たないし、当時のアメリカはひどい混乱状態ではなかった。

ラッセル・シュウェイカート (私が乗った)アポロ9号が打ち上げられたのはベトナム戦争の最中で、その少し前にはマーチン・ルーサー・キングとロバート・ケネディの暗殺事件が相次いで起きた。当時は暴動が多発し、歴史に刻まれるような出来事が次々に起きていたが、私たちはアポロ計画に没頭し、粛々と計画を進めていた。

私は「今ここ」に集中するタイプだが、最も胸中深くにある重大な関心事は、そしてエネルギーを注いでいるのはずっと先の未来だ。長期的にこの国がどうなるかに、はるかに関心がある。

今は困難な時代だし、今後も困難な状況は続くだろうが、ある意味でそれは大海原の歴史、いや、もっと正確に言えば、歴史という大海原に浮かぶ泡のようなものだ。水面の泡は深い海底で起きていることにはほとんど影響を及ぼさない。

私たちの役割、果たすべき責任は人類の偉大な実験を進めていくことだ。私にとってはそれが重要で、アポロも有人月面着陸から50周年の祝賀もそのために大きな意味を持つ。月から地球を眺めて、自分たちが宇宙の片隅に生きていること、自分たちには責任があることに気付く。それが重要なのだ。

国内政治の騒々しい議論や罵り合いの最中でも、国の指導者たちは(宇宙探査に関して)より深い理解を持っていると思いたい。(宇宙探査は)ある意味で、私たちが未来の世代のために、数知れないほど多くの世代のために果たすべき責務なのだ。

司令船から2人の月面着陸を見守った幸せ

マイケル・コリンズ お分かりだろうが、私がアポロ11号で最高の席に座れたなどと言えば、嘘つきかまぬけだろう。でも私は絶対的な真実と冷静さをもって言える。自分が座った席に満足していると。

私はアポロ11 号に搭乗することを誇りに思っていた。人類を月に立たせるというジョン・F・ケネディ米大統領の夢を、私たちがアポロ11 号で成し遂げた。私はその欠くことのできない一員だった。ニール(・アームストロング)とバズ(・オルドリン)は私がいなければ帰還できなかった。あの席に座れて幸せだったよ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中