最新記事

米大統領選

ロムニーにとって災害支援は「不道徳」

巨額の政府債務を抱えながら災害支援を行うのは子供の未来を危険にさらすことだという倒錯した論理

2012年10月30日(火)16時34分
マシュー・イグレシアス

連邦政府は関知せず? 巨大ハリケーン「サンディ」の直撃を受けたニュージャージー州 Tom Mihalek-Reuters

 大きな自然災害が発生したら連邦政府が救援に乗り出す──11月6日の大統領選で共和党のミット・ロムニー候補が勝てば、そんな常識も通用しなくなるかもしれない。

 ロムニーは昨年、共和党の大統領候補を決める予備選の討論会で、財政赤字の削減に注力すべき時期に、連邦政府が災害時の支援に公的資金を投入するのは「不道徳」だと発言したのだ。

 討論会でロムニーはまずこう切り出した。「連邦政府の手を離れて州政府に戻せるものがあれば常にそうするのが、正しい方向性だ。その方針をさらに進めて民間部門に戻せれば、なおいい。連邦予算の支出項目の中から『何を削減すべきか』ではなく、反対に『何を残すべきか』を考えるべきだ」

「でも、災害支援は残しますよね」と、司会役のジョン・キングが尋ねると、ロムニーはこう答えた。

「残せない。子供たちの未来を危険にさらすことなく、災害支援をする財政的余裕はない。債務を返済し終わる前に自分たちは死ぬとわかっていながら、債務を増やし続け、それを子供の世代に押しつけ続けるのは不道徳だと思う。まったく理解できない」

 大統領選の投票日が目前に迫るなか、ロムニー陣営は当然、大幅な歳出削減については慎重な言い回しをしているが、実際にはあらゆる分野で大ナタを振るう構想を温めている。ロムニーはGDPの20%に相当する額まで歳出を削減したいと考えているが、一方で軍事費をGDPの4%まで増額し、社会保障費は削減しない方針だという。

 予算・政策研究所によれば、この目標を達成するには軍事と社会保障以外の分野で一律34%の歳出削減が必要になる。さらにメディケア(高齢者医療保険制度)も削減対象から外すことになれば、それ以外の分野で53%の削減が必要になる。

被災地は荒廃する一方

 だが私に言わせれば、巨額の財政赤字があるからこそ、災害時の支援や復興事業は連邦政府が担うべきだと思う。ハリケーンによって送電線や橋などのインフラが破壊されて人命が失われたのに連邦政府が手を差し伸べなかったら、復旧・復興に何カ月も何年もかかる。それこそ「安物買いの銭失い」の極みだ。

 極端にいえば、基本的なインフラが迅速に復旧すればするほど、経済活動も早期に復活する。だがそのためには、巨額の復興プロジェクトにすぐに資金を出せる組織、つまり連邦政府の関与が不可欠だ。

 ハリケーンや洪水で甚大な被害を受けたデラウェア州やルイジアナ州が自力で復興しようと思っても、予算の均衡を義務付ける法律のために歳出を増やすわけにいかず、しかも税収の落ち込む一方。これでは被災地はますます荒廃するしかない。

 
© 2012, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏「原発周辺への攻撃」を非難、ウクライナ原

ワールド

西側との対立、冷戦でなく「激しい」戦い ロシア外務

ワールド

スウェーデン首相、ウクライナ大統領と戦闘機供与巡り

ワールド

プーチン氏、ロは「張り子の虎」に反発 欧州が挑発な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中