最新記事

健康

早死にするのはどのスポーツ?

2012年10月5日(金)16時09分
ダニエル・エングバー

 選手の人種・民族構成も死亡率に影響しているかもしれない。アメリカの白人男性の平均寿命は黒人男性より6年長い。プロアスリートでは、この差は縮まるが、完全には解消されない。

 イギリスの研究チームが46〜05年に現役だったNBA(全米プロバスケットボール協会)の白人と黒人の選手を調べたデータがある。全体として非アスリートよりも約4・5年長生きだったが、白人選手のほうが黒人選手より1.5年長生きだった。所得格差を調整した後でも、この差は残った。

 とはいえ、人種が重要な要因ならバーンウェルの調査結果は逆転するはずだ。スポーツにおける多様性・倫理研究所によれば、NFL選手の67%は黒人、31%は白人だ。対してメジャーリーグでは黒人9%、白人61%。またNFL選手には中南米系が1%しかいないが、メジャーリーガーでは27%を占める。中南米系の男性はアフリカ系や白人の男性より長寿とされるから、野球選手のほうが一層長生きできてもいいはずだ。

ファンは安心していい

 アスリートの平均寿命が完全に人種で決まるなら、野球選手がずばぬけて長生きで、バスケットボールの選手が一番短命ということになる。

 人種以外の社会経済的な要因も寿命に影響する可能性がある。07年に発表されたベビーブーム世代のメジャーリーガーの寿命を調べたデータによると、全体として元選手は一般男性よりも長生きだが、平均寿命は教育レベルに大きく左右される。大学に進まなかった元選手の死亡率は、4年制の大学を卒業した元選手の2倍に達していた。

 一般に、アメフト選手のほうが野球選手よりも教育程度は高い。ただし、大した差ではない。メジャーリーグから指名された若者の35〜56%は高校卒業後すぐにプロ入りする。一方、NFL選手のおよそ半数は大学を出てからプロになる。

 バーンウェルの調査結果を説明できる要因はほかにいくつもある。バーンウェルは同じ年齢層ではなく、ある時期に現役だった人たちの死亡率を比較している。プロ野球選手のほうが平均してNFLの選手よりも年齢が高いので、元野球選手の死亡率が高くなったのは当然といえるかもしれない。また野球とフットボールでは、トレーニング方法も筋肉増強剤の使用率も、引退後の医療保険のオプションも違う。

 いずれにせよ、こうしたデータでは脳の損傷の影響も、野球やフットボールが危険なスポーツかどうかもはっきりしない。元アメフト選手のパーキンソン病やアルツハイマー病、認知症の発症率を調べたこれまでのデータでは、リスクが高いとも低いとも言い切れず、脳損傷の長期的な影響についても明確なデータはない。

 NIOSHの調査報告は、元NFL選手の個々の死因を分析しているが、サンプル数が少なく、脳損傷に関連した病気のリスクが高いかどうかは判定できない。
それでも、NIOSHのデータは一定の安心材料にはなる。フットボールは危険を伴うスポーツだが、元プロ選手は一般の人より長生きできる確率が高いということだ。バーンウェルは元選手と一般人を比較しても参考にならないと言うが、ファンがほっと胸をなで下ろすには十分だろう。

© 2012, Slate

[2012年9月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米企業のCEO交代加速、業績不振や問題行

ビジネス

アングル:消費財企業、米関税で価格戦略のジレンマ

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 9
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中