最新記事

アプリ

子供向けSNSの危険過ぎる落とし穴

ティーン向けSNSでレイプ事件が発生。「子供市場」を食いあさるIT企業の責任とは

2012年8月10日(金)19時26分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

ターゲット 子供は個人情報のガードが緩く親の買い物に与える影響も大きい Mike Harrington/Getty Images

 IT企業が魅惑的な市場を前に舌なめずりしている。その市場とは10代、あるいはもっと幼い子供たちだ。

 子供は衝動的に物を買う。子供の一声は親の高額な買い物(車や家族旅行の行き先など)にも影響を与える。プライバシーには無頓着で、自分の情報を簡単に人に教えてしまう。

 子供を「お客様として扱う」といえば聞こえはいい。だがその過程でIT企業は子供たちを危険にさらしているのではないか。そんな疑念が今、アメリカで強まっている。

 きっかけはティーンに人気のSNSアプリ「スカウト」を利用していた子供が、ティーンを装った成人に誘い出されてレイプされた事件が3件続いたことだ。被害に遭ったのは12歳と15歳の少女、そして13歳の少年だった(事件を受けて、ティーン向けサービスは停止された)。

 スカウトは07年、携帯電話のGPS機能を利用して、自分がいる場所から徒歩圏内に趣味や好みが似た人がいることを教えてくれる出会い系SNSとしてスタートした。会員は写真入りのプロフィールを作成して、メールでコンタクトを取り合う。

 当初、会員になるには18歳以上という年齢制限があったが、実際には多くの未成年者が年齢を偽って登録していた。そこで数年後に深刻な業績不振に陥ったとき、経営陣は新たに13〜17歳向けのサービスを開始した。

 シリコンバレーのニュースブログ「テッククランチ」は、スカウトを「未知の誰かと知り合いたい若者や恋人募集中の人」が出会うためのSNSアプリ、と紹介している。

 問題の一部はそこにあるのかもしれない。「このアプリはもっと年齢の高い若者向けにつくられていた」と言うのは、子供専用SNS「ユアスフィア」のメアリー・ケイ・ホールCEOだ。「その『売り』は恋愛ごっこ。当然その関係は性的なものになる。それを子供に提供するのは社会的に無責任だ」

フェイスブックも追随?

 だがスカウトの狙いは当たった。今年4月には1カ月の新規登録者が100万人を突破し、業績は黒字に転換。大手ベンチャーキャピタルから2200万ドルの投資を得ることも決まった。

 こうした流れに追随するかのように、SNS最大手のフェイスブックも現在13歳以上としている年齢制限の引き下げを検討している。だが、ウェブサイトやソフトウエアの安全性をチェックするコモンセンス・メディアのジェームズ・スタイヤーCEOは不安顔だ。

「7歳の子供がフェイスブックで1000人の友達を作る必要があるのか。それに、13歳以上の会員の活動もまともに管理できない会社など信用できない」

 確かにどんなサイトでも、性犯罪者を100%締め出すのは不可能かもしれない。だが一定の努力でかなりの成果は挙げられると、サイト上のトラブル監視プログラムを開発するワイアードトラストのペアリー・アフタブCEOは言う。「子供相手に物を売るなら、通常よりもはるかに大きな注意を払う必要がある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身も認める「大きな胸」解放にファン歓喜 哺乳瓶で際どいショットも
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中