最新記事

米大統領選

「ハゲタカ」ロムニー躍進でウォール街の災難

共和党の大統領選予備選で飛び出したロムニーの未公開株投資業界での経歴に対する「ハゲタカ」批判が、業界の思わぬ逆風に

2012年1月12日(木)15時58分
トマス・ミュシャ

トップ候補 ビジネスの経歴を武器にニューハンプシャー州の予備選も制したロムニーだが Adam Hunger-Reuters

 米共和党の大統領選予備選でトップに躍り出たミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が、選挙戦で売りにしているポイントは2つある。

 1)私は経済とビジネスの仕組みを熟知している。共同創業したプライベート・エクイティ(未公開株)企業「ベインキャピタル」での経験によるところが大きい。

 2)私はオバマ大統領に勝てる。

 ロムニーがニューハンプシャー州の予備選で勝利した後、他の候補者たちはこぞって、彼の第1の売りを逆手に取ろうと躍起になっている。それが奏効すれば、2つ目のポイントはおのずと弱まることになる。

 興味深いのが、ニューヨークタイムズの最近の記事だ。それによれば、プライベート・エクイティ業界の関係者たちの間に、こうしたロムニー批判が業界全体のイメージダウンにつながるのではないかという懸念が広がっているという。

 プライベート・エクイティ業界の人間は、ロムニーが主張するようなアメリカ経済の「良きリーダー」などではなく、対抗馬のニュート・ギングリッチ元下院議長やテキサス州知事リック・ペリーが糾弾するとおり、企業を食い物にして雇用を破壊する「ハゲタカ」だという結論に世論が傾いてしまったらどうするのか。

 こうした懸念は、金融業界によるロムニー支持にも影響を与えかねない。特に25年前の映画『ウォール街』ですっかり「強欲」なイメージを植えつけられたプライベート・エクイティ業界はどう反応するだろう。

 ニューヨーク・タイムズはこう書いている。


 企業買収でのし上がってきた多くの経営者たち、特に大金を投じて長年共和党を支持してきた人々は、今回のロムニー批判に戸惑いを隠せない。ロムニーの対抗馬たちは、まるで予備選をロムニーのビジネスキャリアに対する国民投票のように扱っている。おかげでプライベート・エクイティ業界は、これまで友人だとばかり思っていた人々からも攻め立てられる羽目に陥っている。


「こういう事態は覚悟していたが、まだ本選になってもいないのにこれほどとは」と、あるプライベート・エクイティ業界幹部は匿名で語っている。「今後、批判はもっと高まるだろう」

 プライベート・エクイティの業界ロビー団体は、ロムニー批判の巻き添えで被るダメージを低減するために、イメージキャンペーンを展開することにしている。

 だがこの問題は、もっと深刻化するかもしれない。

「ウォール街占拠運動」から見て取れるように、拡大する格差への不満は米社会に蔓延している。そしてもちろん、怒りの矛先はウォール街に向けられている。

 確かにロムニーは今でも選挙戦を有利に進めている。昨年10〜12月には2400万ドルもの選挙資金を集めた。彼は資金提供者たちに、富裕層の大幅減税という形で大きな「恩返し」をすると公約している。

 しかしロムニーへの「ハゲタカ」批判が激しくなり、予備選の舞台がより保守的なサウスカロライナ州へと移る中で、ロムニーは難しい立場に追い込まれようとしている。ウォール街のプライベート・エクイティ業界も同様だ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中